型取りは歯科医院で1度は経験された方も多いと思いますが、今回は、型取り(印象採得)に関するお話を詳しくしたいと思います。
型取りは、患者さんに負担を強いる非常に厄介な作業であり、我々術者にとっても負担のある作業です。
従来からあるこの負担のある型取りは、現在、最も普及しているクラシカルな方法として行われております。
近年、患者さんに負担の少ない方法として「光学印象」を用いるところも増えてきました。今後は、患者さんも術者も負担の少ない光学印象に置き換わっていくことになるでしょう。
お口の中の歯や歯列の状態・形態をお口の外に再現するために、お口の中の陰型をとる作業を「印象採得」と言います。
被せ物用に形を整えた(支台歯形成)歯に装着する補綴装置を製作するために印象採得により得られた印象から模型を作り、それをもとに精密な被せ物(補綴装置)を製作する方法を間接法といいます。
この間接法による型取り(印象採得)においてより良い型取りを得ることが良好な被せ物を得る最初のステップとなります。
良い印象の条件は、支台歯の形を正しく再現する(形態再現性)、寸法を正しく再現する(寸法精度)、表面性状を細部まで再現する(細部再現性)ことができているかです。
被せ物を作るために型をとる材料(印象材)には以下の物があります。
- シリコーンゴム印象材
- アルジネート印象材
- 寒天印象材
- ポリエーテルゴム印象材
- ポリサルファイドゴム印象材
アルジネート印象材(不可逆性ハイドロコロイド印象材)の特徴です。
①現在、歯科臨床で最も多く使用されています
②安価です
③練和、印象操作が容易です
④アルジネート単独では概形印象(スナップ印象)に用いられます
⑤他の弾性印象材と比較して寸法精度に劣ります
⑥離液、膨潤により寸法変化が著しい傾向にあります
⑦模型材の表面が荒れやすいです
取り扱いの最重要ポイントは?
アルジネート印象材が十分硬化したら一気に撤去し、すぐに石膏を注ぐことです。
シリコーンゴム印象材の特徴です
①縮合型と付加型がありますが、現在はほぼ付加型です
②操作時間、硬化時間はポリサルファイドゴム印象材より短いです
③疎水性が強く支台歯の防湿乾燥が重要です
1縮合型シリコーンゴム印象材
1)他のラバー系印象材に比べ寸法安定性がやや劣ります
2)付加型に比べ永久ひずみが大きいです
2付加型シリコーンゴム印象材
1)永久ひずみがラバー系印象材のなかで最小です
2)ラバー系印象材のなかで最も温度の影響を受けます
3)硬化反応は縮合型に比べシャープです
4)寸法安定性に優れます
5)硬化体が硬いです
ポリエーテルゴム印象材の特徴です
1)永久ひずみが小さいです
2)硬化体が硬いです
3)寸法安定性が少し劣ります
4)水分と接触すると吸水膨張を起こします
5)硬化時間は温度が高くなると短くなります
寒天印象材(可逆性ハイドロコロイド印象材)の特徴です
1)ゾルーゲルとなる可逆反応を利用します
2)槽式もしくは3槽式のコンディショナーが用いられます
3)単独で使用する場合、水冷トレーが必要です
4)精密印象が可能(アルジネート印象材との連合印象として使用される頻度が高い)です
5)離液、膨潤により寸法変化が著しいです
6)アルジネート印象材に比べ寸法精度に優れます
印象法
印象法の種類
1)単一印象法
ひとつのタイプの印象材を用いる印象法です
2)連合印象法
種類の異なる印象材あるいは同じ種類の印象材で流動性の異なるタイプを用い2つのステップ(一次印象と2次 印象、概形印象と精密印象)で行う印象法です ・たとえば、シリコーンラバー印象材のパテタイプで概形印象しインジェクションタイプで精密印象する方法など
3)二重同時印象法(ダブルミックス印象法)
主として同じ種類のラバー印象材で流動性の異なる2つのタイプを同時に錬和し積層圧接して印象する方法です
4)個歯トレー印象法
個々の支台歯の印象に個歯トレーを使用しその上から歯列印象を行う印象法です
- 印象材の厚さを薄く均一にできます
- 寸法精度に優れます
- 隣在歯のアンダーカットの影響による変形を防ぐことができます
- 形態再現性に優れます
- 歯肉圧排の必要がありません
5)咬合印象法
支台歯と対合歯およびその咬合関係を同時に印象する方法です
1)口腔内の咬頭嵌合位を咬合器上に正確に再現できる➡作製したクラウンの高さが狂いにくいです
2) 支台歯が1/3顎程度までの症例に有効です
3)バイトトレー等を用いゴム質の弾性印象材を使用します
4)上下顎同時に模型材を注入することが困難です
5)咬合器に装着する模型の位置や角度をあらかじめ設定しにくいです
6)偏心位での咬合調整も必要です
光学印象
CAD/CAM直接法最大のメリットは、印象材を用いた印象採得や咬合採得材料を用いた咬合採得を行わなくてよいことで、光学印象(口腔内スキャナー)により印象採得、咬合採得することになります
光学印象のメリットは、器械で計測したデータをインターネットでやり取りするため、従来の方法のように消毒の必要がなく、感染防止の面からも優れ、消毒による印象制度への悪影響も避けられます。
印象材の硬化を待たなくてもよいので、患者さんの苦痛も少なく、嘔吐反射のある患者さんにも大きなメリットで苦痛の負担を軽減できます。
リアルタイムで支台歯形成(適切な土台の形にけずること)の確認ができるため、その場で形の修正ができ、再形成後には修正した部分のみもう一度光学印象して以前のデータと重ね合わせて修正することができる優れものです。
データが残っているので、もう一度同じ被せ物を作ることができます。
支台歯(土台の歯)を含む歯列、対合歯列、かみ合わせ際の状態を頬側からスキャナーでとり、そのデータをもとにコンピューターで自動的に上下の模型を咬合させてライブラリーをもとにほぼ自動的に被せ物の設計を行います。必要に応じ人間の手で機械の設定を調整して補正を行いながら作っていきます。
光学印象の特徴を列挙します
- 消毒の必要がない
- 感染防止に役立つ
- 印象精度への影響を避けられる
- 患者の苦痛を軽減
- 嘔吐反射のある患者に有効
- 同じクラウンを製作できる
- リアルタイムで形成の確認ができる
- 印象材を必要としない
- スキャナーで咬合採得を必要とする
- スキャナーで対合歯の印象を必要とする
- 必要に応じ歯肉圧排が必要
- 光造形法で模型を製作できる
- CAMで模型を掘り出すことができる
以上素晴らしいメリットがたくさんあり、早く全国どこの歯科医院でも患者さんが利用できるようになることが望まれます。
歯肉圧排(しにくあっぱい)
最終的な型取りを行う際、支台歯のフィニッシュライン(被覆する縁端)が歯肉縁下に及ぶ場合、そのフィニッシュラインを明確に型取りするため辺縁歯肉を支台歯から離す方向に一時的に排除して歯肉構を広げます。この歯肉構を広げる処置を歯肉圧排といいます。
上皮付着部を損傷しないように糸を周囲歯肉側から歯根側に歯面に沿わせて圧入することが重要です。
1重圧排法と2重圧排法
1重圧排法
歯肉溝に合った太さの糸(歯肉溝のスペースより太い圧排糸を用いる)を1本支台歯全周に用 いる。
歯肉溝深くに入れすぎないこと。印象時にコードを撤去
2重圧排法
まず細いコードを歯肉溝底部に挿入し、その上に太いコードを挿入し1本目の糸を残したまま 2本目の太い糸を除去し印象する。歯肉溝からの出血や浸出液の影響を確実に避けるため
圧排用コードに染み込ませる収斂作用のある薬剤
塩化アルミニウム、塩化第二鉄、ミョウバン
印象採得後の処理
印象表面を流水下でよく洗浄(アルジネート印象材の場合、約120秒。シリコーン印象材の場合、約30秒。直接水流に当てない。)してから薬液で化学的に消毒
アルジネート印象材の消毒
120秒以上水洗 0.1~1.0%次亜塩素酸ナトリウム溶液15~30分浸漬 (2~3.5%グルタラール溶液30~60分浸漬劇←浸漬時間が長いので使用しない)
シリコーンゴム印象材の消毒
30秒以上水洗 0.1~1.0%次亜塩素酸ナトリウム溶液15~30分浸漬 2~3.5%グルタラール溶液30~60分浸漬
- 次亜塩素酸ナトリウム溶液、グルタラール溶液共にB型肝炎ウイルスに有効
- 薬液に浸漬しても影響が少ない印象材は,シリコーンゴム印象材とポリサルファイドゴム印象材
- ハイドロコロイド系印象材は薬液に浸すと大きく変形する⇒取り扱い困難でシリコーンゴム印象材を用いるか消毒時間の短い次亜塩素酸ナトリウム溶液を用いる