■ 歯肉圧排とは？
歯肉圧排とは、歯と歯肉の境界（歯肉溝）に器具や材料を使って歯肉を物理的に押し広げる操作です。
目的は、支台歯の辺縁（マージン）部分の正確な情報を採得するために、歯肉を一時的に退避させることです。
きれいで長持ちする被せ物のために
歯肉圧排を行うことで、被せ物がピッタリ合って、長く安心して使えるようになります。
■ 歯肉圧排を行う主な目的
① マージンの明示と露出
- 支台歯のマージンが歯肉縁下（歯肉の下）に設定されていることが多いため、歯肉を排除しないと正確に見えない・印象できない。
- 正確なマージンの印象が採れないと、クラウンの適合性が悪くなり、二次カリエスや歯周病を引き起こす可能性が高くなる。
② 印象材が流れ込むスペースの確保
- 歯肉圧排によって歯肉溝を広げ、印象材（シリコンなど）がマージンまでしっかり到達できるようにする。
- マージン部分の気泡や欠損を防ぐためにも必要。
③ 出血や滲出液のコントロール
- 歯肉圧排材には止血剤を含むものもあり、出血・滲出液を抑えることで印象材の変質や不良を防ぐ。
④ 支台歯形成時の視野の確保
- 歯肉縁下にマージンを設定する場合、形成中に歯肉が干渉すると正確な形成が困難。圧排によって安全かつ正確に形成できる。
■ 歯肉圧排の方法
● 機械的圧排（メカニカル）
- **圧排糸（しにくあっぱいし）**を歯肉溝に挿入する。
- 単糸法（一本のみ）または二重圧排法（太い糸＋細い糸の二本）で行う。
● 化学的圧排
- 圧排糸に止血剤（塩化アルミニウム、硫酸鉄など）を含浸させて用いる。
- 出血や滲出液の抑制が目的。
● 外科的圧排（あまり一般的ではない）
- 電気メスやレーザーを使って歯肉をトリミング。
- 重度の過形成や深い縁下マージンなどの特殊症例で行う。
■ 歯肉圧排糸の種類と選び方
| 種類 | 特徴 | 使用例 |
| プレーン（無薬剤） | 止血力はないが柔らかく適応性が高い | 軽度圧排、機械的圧排のみで足りる場合 |
| 止血剤含有タイプ | 止血＋圧排が可能 | 出血が予想される縁下形成時など |
| 編みこみタイプ | より強い圧排力 | 深い歯肉溝や固い歯肉に適応 |
■ 二重圧排法（ダブルコード法）のメリット
- 太い糸でしっかり圧排 → 細い糸を追加して印象直前に抜去 → 最も正確なマージンの印象が可能。
- 特にCAD/CAMクラウンや高精度補綴物を作製する場合に推奨。
■ 圧排時の注意点とリスク
- 無理な圧排は歯肉の損傷・退縮・壊死につながる可能性がある。
- 歯周ポケットが深い、または炎症の強い歯肉では慎重に行う必要あり。
- 長時間の放置や過度な圧力は歯周組織へのダメージになる。
- 歯肉が脆弱な高齢者や歯周病患者ではレーザー圧排や低侵襲な圧排方法を検討。
■ 歯肉圧排とデジタル印象
- 光学印象（口腔内スキャナー）でも、マージンが歯肉縁下にある場合は物理的に露出させないとスキャンできない。
- デジタルだから圧排が不要というわけではない。
■ まとめ：歯肉圧排は補綴治療の成功を左右するカギ
| 項目 | 内容 |
| 目的 | マージン露出、印象精度向上、出血抑制、形成の安全性 |
| 方法 | 圧排糸（単糸・二重）、止血剤使用、場合によりレーザー等 |
| メリット | 適合精度、補綴物の長期安定、歯周健康の維持 |
| リスク | 歯肉損傷、退縮、疼痛など（慎重な操作が必要） |