⭐「口腔内スキャナー(Intraoral Scanner:IOS)」について、歯科臨床の実際と最新トレンドを含めて解説します。
補綴、矯正、インプラント、デジタルワークフローまで網羅しています。
■ 口腔内スキャナー(IOS)とは?
口腔内スキャナーとは、口腔内を3D光学スキャンしてデジタル模型(STL/PLY/OBJなど)を作成する装置です。
従来の印象材(シリコーン・アルジネート)を使わず、光学的に歯列や軟組織を読み取ります。
■ 口腔内スキャナーの仕組み(読み取りの原理)
口腔内スキャナーは主に次の方式を採用しています:
① ストラクチャードライト方式(Structured Light)
青色・白色光を歯列に投影し、反射光の変形から3D形状を解析
精度が高く、補綴領域で多く用いられる
② レーザー方式
レーザー光を当て、その反射から形を計測
金属・唾液反射に強い
③ 位相差解析・マルチビュー合成
多数画像を連続撮影し、AIで3D形状を再構築
最新機は高速・高精度
最新機種では複数方式をハイブリッド化し、揺れや唾液に強くなっています。
■ 口腔内スキャナーのメリット(歯科側・患者側)
■【歯科側のメリット】
① 印象精度が非常に高い
☞通常のシリコン印象より安定した精度
☞変形がない
☞噛み合わせ誤差が少ない
☞補綴の 適合精度の向上が明確に報告されています。
② データ劣化しない(保存・転送が容易)
☞デジタル保存で紛失・変形なし
☞技工所へ即時転送
☞再印象が必要な時はデータの再利用が可能
③ デジタルワークフローとの連携が容易
☞CAD/CAM冠
☞3Dプリンティング
☞インプラントサージカルガイド
☞顎位分析
☞矯正シミュレーション(クリンチェック等)
④ ラボ間の情報共有がしやすい
☞技工士とのコミュニケーションがデジタルで詳細に。
⑤ 印象材・石膏のコストや時間を削減
☞印象材不要
☞石膏模型作業ゼロ
☞物流も不要
⑥ 感染管理が容易
☞印象材の吐き戻しなし
☞嘔吐反射がある患者で特に有効
■【患者側のメリット】
☞嘔吐反射が出にくい
☞座っている時間が短い
☞型取りの不快感がほぼゼロ
☞できあがりが早い
☞画面で歯列を見られるため「見える診療」に
■ 活用分野(歯科治療別)
① 補綴(クラウン・インレー・ブリッジ)
☞シリコーン印象より適合が良いケースが増加
☞CAD/CAM冠への応用と品質・精度の向上
☞マージン部の描出が正確
☞咬合調整量の減少
☞支台歯形成の良し悪しをリアルタイムで確認
★補綴領域は最もIOSと相性が良い分野です。
② インプラント治療
【使い方】
☞スキャン → CBCTとマッチング → デジタルプラン
☞サージカルガイド作成
☞最終補綴の精密印象
☞インプラント体の位置情報をトランスファー可能
(スキャンボディを使用)
【メリット】
☞ガイドオペの精度向上
☞アバットメント・上部構造の高精度設計
☞ねじ緩みや適合不良のリスク低減
② 矯正治療
★現代の矯正は事実上「IOS無しでは成立しない」レベルです。
☞クリアアライナー矯正(インビザライン等)
☞事前シミュレーション(歯列の動きの可視化)
☞仕上げの精度向上
☞治療計画の患者説明が容易
☞従来の印象材では得られない精度・快適性があります。
③ 口腔内モニタリング(経時変化の追跡)
☞スキャンデータは経時比較が容易:
☞歯周病の歯肉退縮のモニタリング
☞補綴物のマージンギャップ評価
☞磨耗量の計測
☞咬耗・歯ぎしりの長期管理
☞インプラント周囲の変化の記録
☞「デジタル口腔カルテ」として活用できます。
④ 顎位・咬合分析
☞咬合面の形態を詳細に取得
☞ジャウレコーダーやフェイスボウと統合可能
☞デジタル咬合器での咬合再現
☞咬合診断の精度が大きく向上しています。
⑥ 有床義歯(デンチャー)
従来より難度が高い領域ですが、最近は対応が進んでいます。
☞デジタル義歯(上下一体のスキャン)
☞粘膜負担部位の読み取り精度改善
☞咬合採得を含めたデジタルワークフローが確立しつつある
■ 口腔内スキャナーの精度は?
☞ トータル精度はシリコン印象と同等〜それ以上
特に
全顎スキャン → 最新機種は誤差50µm以下
支台歯マージン → シリコン印象以上の精細さ
インプラント → スキャンボディ使用で非常に高精度
最新の3Shape TRIOS、Mediter i700、iTero、PrimeScanなどは世界的評価が高いです。
■ デメリット/注意点
① 学習コスト(スキャン技術者の習熟が必要)
☞スキャンの軌跡が悪いと誤差が蓄積し、
補綴適合に影響します。
② 金属・唾液に弱い場面がある
☞唾液で光反射が乱れやすい
☞金属冠の反射でノイズが出る
→ 乾燥やパウダーの調整が必要
③ 全顎を高精度に記録するには慣れが必要
単冠は容易だが、
☞フルマウス補綴やフルアーチは熟練度が必要。
④ 機器の導入コスト
本体200〜700万円
サブスク・保守費用も考慮が必要。
■ 主要メーカーの特徴(簡易比較)
メーカー 特徴
3Shape TRIOS 世界的標準、精度・操作性とも非常に高い。補綴・矯正のバランス良。
iTero インビザラインとの連携が最強。矯正中心の医院に強い。
Medit i700/i700 wireless 高コスパ・精度高い・オープンシステム。
PrimeScan(Dentsply Sirona) 補綴特化の最高レベルの精度。CAD/CAMとの統合が強い。
Aoralscan(Shining3D) コストを抑えつつ高精度、導入しやすい。
医院の特性によって選択が分かれます。
■ 口腔内スキャナーが今後どう進化するか?(最新動向)
☞AIによる自動補正でスキャン技術が不要になる
☞唾液・血液・金属反射に左右されにくくなる
☞カラー情報の精度向上 → シェード測色が正確に
☞動的スキャン(嚥下・咬合運動解析)
☞デジタル義歯が完全普及
☞患者自身が自宅でスキャンする時代へ
すでに「口腔機能診断」の一部として臨床応用が始まっています。
■ まとめ
口腔内スキャナーとは、歯科治療の精度・スピード・快適性を一気に高めるデジタル機器であり、
補綴・矯正・インプラント・診断など全領域で必須レベルになりつつあります。
☞精度が高い
☞患者さんが楽できる
☞デジタル連携しやすい
☞治療の品質向上
☆デジタルデンティストリーの中心となる技術です。


