⭐歯ぎしり(ブラキシズム)が歯・歯周組織・顎口腔系全体にどのような影響を与えるかを解説します。
🦷 歯ぎしり(ブラキシズム)とは
歯ぎしりは主に次の3タイプがあります。
種類 内容
1 グラインディング 歯を横にこすり合わせる
2 クレンチング 強く噛みしめる(音なし)
3 タッピング カチカチと歯を当てる
📌 歯周組織への影響が大きいのは、特に「クレンチング」です。
① 歯への影響
1.咬耗(歯のすり減り)
エナメル質が削れ
象牙質が露出
知覚過敏・歯冠短縮
👉 生理的咬耗を超えるスピードで進行します。
2.マイクロクラック(微細亀裂)
エナメル質〜象牙質に微小なヒビ
温冷痛・違和感の原因
将来的な歯冠破折・歯根破折の前段階
📌 レントゲンではほぼ確認できません。
3.補綴物のトラブル
詰め物・被せ物の脱離
セラミック破折
マージン不適合
👉 「治療が悪い」のではなく
👉 過剰な力が原因のことが多いです。
② 歯周組織への影響(ここが重要)
🔴 ポイント
歯ぎしりは 歯周病の“直接原因”ではない
しかし
👉 歯周病を悪化・進行させる強力な因子です。
1.歯根膜への過負荷(外傷性咬合)
起こること
歯根膜が圧迫・虚血
炎症性変化
歯の動揺増大
📌 特に夜間の歯ぎしりは自覚がなく、力が非常に強い
(体重以上の力がかかることも)
2.歯槽骨への影響
骨吸収の助長
垂直性骨欠損の進行
骨のリモデリング異常
👉 プラークが少なくても
👉 骨吸収が進む症例で歯ぎしりが関与していることがあります。
3.歯の挺出・移動
歯が伸びたように見える
歯列の乱れ
咬合の不安定化
👉 結果として
さらに歯ぎしりしやすい悪循環に。
③ 歯周病との関係(臨床的に非常に重要)
🔁 歯周病 × 歯ぎしり の悪循環
歯周病 歯ぎしり
支持骨が減る 残った歯に力が集中
歯が動きやすい 外傷性咬合が増大
炎症が続く 組織修復が妨げられる
📌 歯周病がある人ほど、歯ぎしりのダメージは大きく出ます。
臨床でよく見られるサイン
☞プラークコントロール良好なのに動揺が強い
☞出血は少ないが歯が痛む
☞特定の歯だけ急に悪化
👉 歯ぎしりを疑うべき所見です。
④ 歯以外への影響
1.顎関節
☞顎関節痛
☞開口障害
☞関節雑音
2.筋肉・全身症状
☞起床時の顎の疲れ
☞頭痛・肩こり
☞首・背中の緊張
📌 歯ぎしりは全身の緊張反応の一部でもあります。
⑤ 歯ぎしりは「無意識の習癖」
重要なのは、
歯ぎしりはクセ”ではなく、
ストレスや脳の覚醒反応に関係する生理現象
つまり
👉 本人の努力だけでは止められない
👉 責めてはいけない
⑥ 対応の基本的考え方(歯周病患者)
✔ 完全に止めることは目標にしない
→ 「守る」ことが治療目
✔ 具体的対策
日中の噛みしめ癖への気づきとリリース
ナイトガード(スプリント)
歯周治療との併用
場合により咬合調整
📌 特に歯周病患者では
スプリントは予防装置として重要です。
⑦ まとめ
「歯ぎしりは、歯を揺さぶる力です。」
「歯周病があると、その揺さぶりに耐えにくくなります。」
「だから、歯をきれいにする治療と、
力から守る対策の両方が必要なんです。」
総まとめ
☞歯ぎしりは力の問題
☞歯周病は炎症の問題
☞両者が重なると
👉 組織破壊は加速する
👉 歯周治療では
「プラークコントロール+力のコントロール」が必須
🌟歯ぎしり(ブラキシズム)によって起こる歯頸部欠損(NCCL:Non-Carious Cervical Lesion)について
解説します。
🦷 歯ぎしりによる歯頸部欠損とは?
歯頸部欠損(NCCL)とは
むし歯ではない
歯と歯ぐきの境目(歯頸部)が
歯ぎしり(ブラキシズム)によって起こる歯頸部欠損(NCCL:Non-Carious Cervical Lesion)について、
🦷 歯ぎしりによる歯頸部欠損とは?
歯頸部欠損(NCCL)とは
むし歯ではない
歯と歯ぐきの境目(歯頸部)が
えぐれたように欠ける病変
📌 歯ぎしりが関与するタイプは
「アブフラクション(abfraction)」と呼ばれます。
① 発生メカニズム(最重要)
🔴 ポイント
歯ぎしりによる歯頸部欠損は
「削れる」のではなく「割れる」現象です。
歯に加わる力の流れ
歯ぎしりでは、
横方向
斜め方向
繰り返しの強い力
が加わります。
👉 その結果、
歯が「たわむ」
歯冠部が横に押される
歯根は骨に固定されている
歯頸部に応力集中が起こる
エナメル質・象牙質の疲労破壊
歯頸部のエナメル質は薄い
結晶配列が弱い
👉 微小亀裂(マイクロクラック) 👉 欠け落ちる 👉 楔状欠損へ
📌 これがアブフラクション説です。
② 臨床的特徴(歯ぎしり由来)
特徴 内容
形態 V字・楔状
表面 つるっとしていることが多い
部位 犬歯・小臼歯に多い
左右 対称的に出やすい
併発 咬耗・歯の亀裂
📌 特に犬歯誘導が崩れている症例で顕著です。
③ 他原因との違い(鑑別)
1.過度なブラッシング(摩耗)
U字状
表面がなだらか
歯ブラシが当たりやすい部位
👉 削れた印象
2.酸蝕症
丸みを帯びる
エナメル質が薄くなる
歯面全体にツヤ
👉 溶けた印象
3.歯ぎしり(アブフラクション)
シャープな楔状
境界が明瞭
単独歯または左右対称
👉 割れた印象
📌 多くの症例では
👉 複合要因(力+摩耗+酸)です。
④ 歯周組織との関係
歯周病があると…
歯槽骨が減少
歯がより「たわみやすい」
応力集中が増大
👉 歯頸部欠損が進行しやすい
📌 動揺歯ほど進みやすいのはこのためです。
⑤ 症状との関係
☞知覚過敏
☞象牙細管が露出
☞冷水痛・風による痛み
👉 歯ぎしりが続くと
欠損が深くなり症状も増悪
歯髄への影響
欠損が深い
象牙質が薄い
👉 慢性的刺激 → 歯髄炎リスク
⑥ 治療・対応の考え方
🔴 原因除去が最優先
詰めるだけでは再発・脱離しやすい。
① 力のコントロール
日中の噛みしめの「気付き」の徹底
ナイトガード
咬合調整(慎重に)
② 修復治療(必要な場合)
フロアブルレジン
弾性のある材料が有利
📌 ただし
👉 力が残っていると脱離しやすい
③ 知覚過敏対策
☞知覚過敏抑制剤
☞レーザー
☞歯磨剤指導
⑦ 患者さん向け説明
「この欠け方は、歯ブラシで削れたものではありません。」
「歯ぎしりで歯がしなって、
根元が少しずつ割れてきた状態です。」
「埋めることもできますが、
力を和らげないと、また同じことが起こります。」
⑧ 臨床での重要な視点
欠損の大きさより
👉 進行速度
痛みの有無より
👉 力のサイン
📌 歯頸部欠損は
歯からの「力の警告」です。
総まとめ
●歯ぎしりによる歯頸部欠損=アブフラクション
●原因は横方向の過剰な力
●歯周病があると進行しやすい
●修復だけでは不十分
●力のコントロールが治療の本
質


