急性化膿性歯髄炎(耐え難い歯痛の代表)とは何か
― 強い歯痛の正体と、歯を守るために知っておくべき医学的事実 ―
【基礎編】急性化膿性歯髄炎とは
急性化膿性歯髄炎とは、歯の内部に存在する歯髄(しずい:血管・神経・結合組織からなる組織)に細菌感染が生じ、膿(うみ)を伴う急性の強い炎症反応が起こった状態を指します。
☞歯科臨床において「耐えがたい歯痛」の代表的原因であり、自発痛・夜間痛・温熱痛を特徴とする重篤な歯髄疾患です。
〇なぜ「化膿性」と呼ばれるのか
炎症が進行すると、歯髄内では好中球を中心とした免疫反応が激しく起こり、細菌や壊死組織を処理する過程で膿が形成されます。この膿の存在こそが、「化膿性」と呼ばれる理由です。
病理学的には、歯髄組織の壊死、血管拡張、滲出液の貯留、白血球浸潤が確認されます。
〇どのような歯から起こりやすいか
急性化膿性歯髄炎は、以下のような歯で発症しやすいことが知られています。
☞深く進行したむし歯(象牙質を超え歯髄近くまで達したもの)
☞長期間放置されたむし歯
☞詰め物・被せ物の下で再発した二次う蝕
☞過去に大きな修復を受けた歯
☞亀裂や破折が存在する歯
これらはいずれも、細菌が歯髄へ到達・侵入しやすい環境を作り出します。
【原因編】なぜ急性化膿性歯髄炎は起こるのか
主な原因
急性化膿性歯髄炎の直接的原因は、歯髄内への細菌感染です。
具体的には以下が挙げられます。
☞深いむし歯による細菌侵入
☞歯の破折やマイクロクラック
☞修復物と歯質の隙間からの細菌漏洩(マイクロリーケージ)
☞外傷による歯髄損傷・血流障害
☞特に、象牙細管を通じた細菌毒素の侵入は、歯髄炎の発症に重要な役割を果たします。
👉なぜ急に強い痛みが出るのか
歯髄は、硬い象牙質とエナメル質に完全に囲まれた閉鎖空間に存在します。
急性炎症が起こると、
☞血管拡張
☞滲出液の増加
☞組織内圧の上昇
が生じますが、歯髄には逃げ場がありません。
この結果、歯髄内圧が急激に上昇し、神経線維(Aδ線維・C線維)が強く刺激され、拍動性で耐えがたい痛みとして知覚されます。
このメカニズムは、歯髄炎の痛みが「激烈」である科学的根拠です。
【症状編】どんな症状が出るのか
急性化膿性歯髄炎の症状は、他の歯痛とは明確に異なる特徴を持ちます。
痛みの特徴
典型的には、
☞何もしていなくてもズキズキ痛む(自発痛)
☞夜間に特に痛みが強くなる
☞心臓の拍動と同期するような脈打つ痛み
が認められます。
これは、炎症による歯髄内圧上昇と血流変化が関与しています。
〇冷たい物・熱い物への反応
初期:冷水刺激で鋭い痛み
進行期:温熱刺激で強い痛みが持続
温かい飲み物で痛みが悪化することは、不可逆性歯髄炎・化膿性歯髄炎の重要な診断所見とされています。
👉鎮痛薬は効くのか
☞あまり効かないのが特徴
NSAIDsなどの鎮痛薬で一時的に痛みが和らぐことはありますが、大きな効果はありません。
☞効果が短時間
☞痛みが再燃しやすい
☞炎症自体は改善しない
という特徴があります。
鎮痛薬は対症療法に過ぎず、根本治療にはなりません。
【進行編】放置するとどうなるのか
自然に治ることはあるか?
結論から言えば、自然治癒は起こりません。
放置すると、歯髄は不可逆的に壊死し、感染は歯根の先へと広がります。
痛みが急に消えた場合
一見「治った」ように感じることがありますが、これは
歯髄が壊死し
神経が機能を失った
ことによるものです。
実際には、感染はさらに進行している可能性が高く、根尖性歯周炎や顎骨炎へ移行する危険なサインです。
【診断編】どのように診断するのか
診断は複数の所見を総合して行われます。
☞問診(痛みの性質・持続時間・夜間痛の有無)
☞冷温診(反応の強さ・持続性)
☞打診(歯根膜炎の有無)
☞X線検査・歯科用CT
レントゲンでは、初期の歯髄炎は写らないことも多いですが、診断の補助として不可欠です。
【治療編】どのように治療するのか
治療の基本方針
急性化膿性歯髄炎の治療原則は、
👉 感染した歯髄を除去し、密閉された環境を解除すること
です。
〇具体的な治療法
☞抜髄(生活歯髄切断・根管治療)
☞応急的な開放処置(強い疼痛時)
☞感染根管治療
神経は必ず取るのか?
エビデンス上、急性化膿性歯髄炎では歯髄保存は極めて困難とされています。
保存療法の成功率は著しく低く、再燃リスクが高いため、抜髄が選択されることがほとんどです。
抗生物質は必要か?
原則として、
外科的処置(抜髄・排膿)が最優先
抗菌薬は全身症状がある場合のみ補助的に使用
とされています。
抗菌薬単独投与は、無効または有害とするエビデンスが多数報告されています。
【予後編】治療後はどうなるか
適切な根管治療が行われれば、歯の長期保存は十分可能です。
一方、治療が遅れると、
☞根尖病変の拡大
☞歯根破折
☞抜歯
のリスクが高まります。
【患者さんがよく誤解する点】
夜間に痛みが強くなるのは、横になることで頭部血流が増え、歯髄内圧が上昇するためで、気のせいではありません。
また、痛い歯を温めると血流が増し、痛みが悪化することが多いため注意が必要です。
【予防編】どうすれば防げるのか
☞むし歯の早期治療
☞定期歯科検診
☞修復物の定期的チェック
これらが、急性歯髄炎の最大の予防策です。
【要約】一番大切なこと
ズキズキする激しい歯痛は、我慢せず早期に歯科を受診すること。
これが、歯を守り、痛みから解放される最も確実な方法です。
急性化膿性歯髄炎は、
自発痛・夜間痛・温熱痛を伴う重篤な感染性疾患であり、
早期治療こそが歯の運命を左右します。
早めの受診が、歯を救います。


