渋谷区恵比寿の歯科医院|SHIRON DENTAL OFFICE(シロンデンタルオフィス)

歯科治療と耳鼻科領域疾患の関連性

⭐歯科治療と耳鼻科領域疾患の関連性
― エビデンスに基づく包括的考察

はじめに:歯と耳・鼻・喉はなぜ関係するのか

〇口腔と耳鼻咽喉領域の解剖学的・生理学的つながり
口腔・上顎・副鼻腔の位置関係
上顎洞と歯根の距離がもたらす臨床的影響
神経支配(三叉神経・舌咽神経・迷走神経)の共有
血行・リンパ流の連続性

〇歯性感染症と耳鼻科疾患の関連
歯性上顎洞炎(Odontogenic Maxillary Sinusitis)
エビデンス:歯性上顎洞炎の発症率と原因歯
慢性副鼻腔炎との関連
歯周病と咽頭・扁桃炎の関係

〇歯科治療が原因となる耳鼻科症状
抜歯後に生じる上顎洞穿孔・口腔上顎洞瘻
インプラント治療と副鼻腔炎
根管治療後の耳痛・違和感

〇顎関節症(TMD)と耳鼻科症状の関係
耳痛・耳鳴り・めまいとの関連性
エビデンス:顎関節症患者における耳症状の頻度
顎関節と中耳の解剖学的連結
歯科的介入による症状改善例

〇咬合異常と耳鼻科領域への影響
咬合不全と耳管機能障害
咬合と姿勢・頸部筋緊張の関連
スプリント療法の有効性

〇歯周病と全身・耳鼻科疾患との関連エビデンス
歯周病原菌と慢性炎症
慢性咽頭炎・後鼻漏との関連性

〇口腔内細菌叢と上気道感染症
バイオフィルムの形成と感染拡大
口腔ケア介入研究のエビデンス

〇歯科・耳鼻科連携診療の重要性
見逃されやすい歯性病変
多職種連携の成功事例

〇最新研究・システマティックレビューの紹介
歯性上顎洞炎に関するメタアナリシス
顎関節症と耳症状のレビュー論文

〇臨床現場での診断・鑑別ポイント
耳鼻科疾患に隠れた歯科的原因
歯科疾患に隠れた耳鼻科的問題

〇患者説明に役立つポイント
なぜ歯の治療で耳や鼻の症状が改善するのか
誤解されやすい症状の整理

〇今後の研究課題と展望
未解明な病態メカニズム
予防医学としての歯科の役割

まとめ:歯科と耳鼻科は切り離せない

よくある質問(FAQ)5選

本文
〇はじめに:歯と耳・鼻・喉はなぜ関係するのか

「歯医者の治療をしたら鼻づまりが治った」「原因不明の耳痛が、実は歯だった」——こんな話、臨床現場では決して珍しくありません。けれど一般的には、「歯科」と「耳鼻科」はまったく別の分野だと思われがちです。
実際、患者さん自身も症状の原因が歯にあるとは夢にも思わず、耳鼻科を何軒も受診した末にようやく歯科にたどり着く、というケースも少なくありません。
しかし、解剖学的・生理学的に見れば、口腔と耳・鼻・咽喉は「壁一枚」どころか、神経・血管・リンパ・空間を共有する非常に密接な関係にあります。
特に上顎歯と上顎洞、顎関節と中耳、歯周組織と咽頭は、炎症や感染が相互に波及しやすい構造です。
近年では、歯性上顎洞炎や顎関節症に伴う耳症状などについて、質の高い疫学研究やシステマティックレビューが蓄積され、「歯科治療と耳鼻科領域疾患の関連」は経験談ではなくエビデンスに基づく医学的事実として認識されるようになってきました。

ここでは、歯科治療と耳鼻科領域疾患の関連について、解剖学・病態・臨床研究のエビデンスを交えながら、できるだけわかりやすく解説していきます。
歯科医師・耳鼻科医はもちろん、医療従事者でない方にとっても「なるほど」と腑に落ちる内容を目指します。

〇口腔と耳鼻咽喉領域の解剖学的・生理学的つながり
歯科と耳鼻科の関連を理解するうえで、まず押さえておきたいのが解剖学的な近さです。これは単なる“隣同士”という話ではありません。まるで同じマンションの別の部屋のように、壁の向こうで音や振動、時には水漏れ(=炎症)が簡単に伝わる構造になっているのです。
口腔は消化管の入り口であると同時に、上気道の一部とも言えます。鼻腔・副鼻腔・咽頭・喉頭は空気の通り道であり、そのすぐ下や横に歯や顎の構造が存在しています。
特に上顎は、歯槽骨のすぐ上に上顎洞(副鼻腔の一つ)が広がっており、歯根と洞底が接触、あるいは突出しているケースも珍しくありません。
また、これらの領域は三叉神経を中心とした共通の神経支配を受けています。
そのため、歯の痛みが耳に響いたり、逆に耳の異常が歯痛として感じられる「関連痛」が生じやすいのです。
さらに、血流やリンパの流れも連続しているため、細菌や炎症性物質が局所を超えて影響を及ぼす可能性があります。
このような構造的背景を理解すると、「歯の病気が鼻や耳に影響する」という現象が、決して不思議ではないことが見えてきます。

〇口腔・上顎・副鼻腔の位置関係
上顎歯と副鼻腔、特に上顎洞の関係は、歯科と耳鼻科のクロスポイントの代表例です。
上顎洞は頬骨の内側に広がる空洞で、呼吸時の空気の加湿・加温、発声の共鳴などに関与しています。
この上顎洞の底は、上顎の第一大臼歯・第二大臼歯の歯根と非常に近接しています。
解剖学的研究によると、成人の約30〜50%では、上顎臼歯の歯根が上顎洞底に接触、あるいは洞内に突出していると報告されています(Sharan & Madjar, 2006)。
この距離の近さが、歯性感染が副鼻腔へ波及する最大の理由です。
歯周病や根尖性歯周炎が進行すると、歯根周囲の骨が吸収され、炎症が容易に上顎洞粘膜へ到達します。
すると、鼻づまり、後鼻漏、頬部痛など、典型的な副鼻腔炎症状が現れます。
しかし原因が歯であるため、通常の副鼻腔炎治療(抗菌薬や点鼻薬)だけでは改善しないことが多いのです。

〇上顎洞と歯根の距離がもたらす臨床的影響
この距離の近さは、歯科治療時にも重要な意味を持ちます。たとえば抜歯やインプラント治療の際、上顎洞底を損傷すると口腔上顎洞穿孔が生じる可能性があります。
これは口腔と副鼻腔が交通してしまう状態で、細菌感染や慢性副鼻腔炎のリスクを一気に高めます。
また、根管治療中に根尖孔から洗浄液や充填材が上顎洞内へ逸脱すると、化学的刺激や異物反応によって副鼻腔炎が引き起こされることもあります。
これらは決してレアケースではなく、耳鼻科と歯科の連携が不十分な場合、原因不明の慢性副鼻腔炎として長期間放置されることすらあります。
このように、上顎洞と歯根の位置関係は、解剖学的事実としてだけでなく、臨床的に極めて重要な意味を持っているのです。

〇神経支配(三叉神経・舌咽神経・迷走神経)の共有
歯科と耳鼻科領域の症状が重なり合う大きな理由の一つが、神経支配の共有です。
特に重要なのが三叉神経です。
三叉神経は顔面最大の感覚神経で、眼神経・上顎神経・下顎神経の3枝に分かれ、歯、歯肉、上顎洞、鼻腔、さらには中耳周囲の感覚にも深く関与しています。
たとえば、上顎の歯に炎症が起こると、その刺激は上顎神経を介して脳に伝達されます。
しかし脳はその刺激を必ずしも「歯」から来たものと正確に認識できるわけではありません。
その結果、頬部痛、眼窩下痛、耳の奥の痛みとして知覚されることがあります。
これがいわゆる関連痛です。
さらに、舌咽神経や迷走神経も、咽頭・中耳・舌根部・口腔後方に広く分布しています。
慢性歯周病や智歯周囲炎などがこれらの神経を刺激すると、咽頭違和感、嚥下時痛、耳の詰まり感といった症状が出現することがあります。
耳鼻科的検査で明らかな異常が見つからず、「自律神経の問題」「ストレス」と診断されがちな症状の中に、歯科的原因が隠れているケースも少なくありません。

〇血行・リンパ流の連続性
口腔と耳鼻咽喉領域は、血管・リンパ管のネットワークも密接に連結しています。
顔面動脈、上顎動脈、翼突静脈叢などを通じて、炎症性サイトカインや細菌が局所を越えて影響を及ぼす可能性があります。
特にリンパ流は、感染や炎症の“通り道”になりやすい要素です。
歯周組織の慢性炎症は、顎下リンパ節や頸部リンパ節の腫脹を引き起こし、それが咽頭痛や首の違和感として自覚されることがあります。
患者は「喉が腫れている」「風邪が治らない」と訴えますが、原因は実は長年放置された歯周病だった、ということもあります。
このような血行・リンパの連続性は、歯科疾患が全身疾患と関連する理由の一部でもあり、耳鼻科領域も例外ではありません。

〇歯性感染症と耳鼻科疾患の関連
ここからは、より具体的にエビデンスが示されている疾患を中心に見ていきましょう。

歯性上顎洞炎(Odontogenic Maxillary Sinusitis)
歯科と耳鼻科の関連を語る上で、最もエビデンスが豊富なのが歯性上顎洞炎です。
これは、歯の感染が原因で発症する上顎洞炎で、近年その頻度が再評価されています。

エビデンス:歯性上顎洞炎の発症率と原因歯

システマティックレビュー(Arias-Irimia et al., 2010)によると、上顎洞炎の10〜40%が歯性であると報告されています。
特に片側性の上顎洞炎では、その割合はさらに高くなります。

原因として多いのは以下です。

・根尖性歯周炎
・重度歯周病
・抜歯後感染
・インプラント関連感染
・根管治療の失敗

症状は一般的な副鼻腔炎と似ていますが、片側性・悪臭を伴う鼻漏・歯痛の既往が特徴的です。
重要なのは、抗菌薬のみでは根本治療にならない点です。原因歯の治療や抜歯を行わなければ、再発を繰り返します。

〇慢性副鼻腔炎との関連
慢性副鼻腔炎の中には、長期間にわたり歯科的原因が見逃されているケースがあります。
CTを詳細に観察すると、上顎洞底に隣接する歯根周囲に骨吸収像が見つかることもあります。
近年の研究では、歯性病変を治療することで、内視鏡下副鼻腔手術を回避できた症例も報告されています。
これは医療経済的にも、患者負担の面でも非常に重要なポイントです。

〇歯周病と咽頭・扁桃炎の関係
歯周病は単なる口の中の病気ではありません。
歯周ポケット内には、Porphyromonas gingivalis などの嫌気性菌が大量に存在し、これらが唾液とともに咽頭へ流入します。
研究によると、慢性扁桃炎患者の扁桃表面から、歯周病原菌が検出される頻度が高いことが示されています。
これは、口腔内細菌が上気道感染のリザーバー(供給源)になっている可能性を示唆しています。

〇歯科治療が原因となる耳鼻科症状
歯科治療そのものが、耳鼻科症状を引き起こすこともあります。
抜歯後に生じる上顎洞穿孔・口腔上顎洞瘻
上顎臼歯抜歯後に生じる上顎洞穿孔は、耳鼻科と歯科の境界疾患の典型です。
穿孔が自然閉鎖せず瘻孔化すると、慢性副鼻腔炎、鼻声、液体が鼻へ漏れるといった症状が現れます。
早期に発見し適切に閉鎖処置を行えば予後は良好ですが、放置すると耳鼻科手術が必要になることもあります。

〇インプラント治療と副鼻腔炎
インプラントが上顎洞内に迷入、あるいは洞底を圧迫することで、副鼻腔炎を引き起こす例も報告されています。
特にサイナスリフト後の感染は注意が必要です。
エビデンスでは、インプラント関連歯性上顎洞炎の増加が指摘されており、歯科医師と耳鼻科医の連携が強く求められています。

〇顎関節症(TMD)と耳鼻科症状の関係
顎関節症は、歯科疾患でありながら、耳鼻科症状を強く伴う代表的な病態です。

耳痛・耳鳴り・めまいとの関連性

複数の研究で、顎関節症患者の30〜70%に耳症状が認められると報告されています。
耳痛、耳鳴り、耳閉感、さらには非回転性めまいまで、症状は多岐にわたります。

エビデンス:顎関節症患者における耳症状の頻度

メタアナリシスでは、顎関節治療(スプリント療法や咬合調整)によって、耳症状が有意に改善することが示されています。
これは、顎関節と中耳が鼓索神経・靭帯構造を介して機能的に関連しているためと考えられています。

〇歯科・耳鼻科連携診療の重要性
これまで見てきたように、歯科と耳鼻科は決して独立した分野ではありません。
むしろ、連携しないことが診断遅延や慢性化の原因になるケースが多いのです。

片側性副鼻腔炎、原因不明の耳痛、治らない咽頭違和感——こうした症状に対し、両科の視点を持つことが、患者にとって最良の結果につながります。

〇まとめ:歯科と耳鼻科は切り離せない

歯科治療と耳鼻科領域疾患の関連は、解剖学的必然であり、豊富なエビデンスによって裏付けられています。

歯を診ることは、鼻や耳、喉を診ることでもある——この認識が、今後の医療には不可欠です。

〇よくある質問(FAQ)

Q1. 副鼻腔炎がなかなか治りません。歯が原因のことはありますか?
はい。特に片側性の場合、歯性上顎洞炎の可能性があります。

Q2. 耳が痛いのに耳鼻科で異常なしと言われました。
顎関節症や歯の炎症による関連痛の可能性があります。

Q3. 歯周病で喉の違和感が出ることはありますか?
あります。口腔内細菌が咽頭炎症を助長することが知られています。

Q4. インプラント後に鼻の症状が出ました。関係ありますか?
上顎洞との位置関係次第では関連することがあります。

Q5. 歯科と耳鼻科、どちらを先に受診すべきですか?
症状によりますが、両方の視点で評価することが重要です。

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