顎関節症
口を開けようとした時あごが痛い・音がする・口が開かないというような症状があるとき、その多くは顎関節症です。
咬合
上下の歯が接触している状態です。
咬合治療
歯を削ってかみ合わせのバランスを調整することや被せ物を被せなおして新しい咬合を作って治療することです。
結論から言うと、顎関節症の治療は、特別なケースを除いて,治療の第1選択は保存的かつ可逆的治療法であって,咬合治療ではないことです。
顎関節治療
それでは具体的に説明していきたいと思います。
顎が痛くなった時、かみ合わせが悪いからそうなったと思ったことはありますか?
顎が痛くなった時、歯医者に行ってかみ合わせが原因と言われたことはありますか?
咬合と顎関節症の因果関係について、皆さんはよくわからないと思いますが、我々専門家でもはっきりした答えを導き出せておりません。
そこで、咬合と顎関節症の関係について、過去の多くの文献から導き出せる現在の捉え方についてお話しさせていただきます。
過去の大部分の研究は、顎関節症の原因として「咬合」が関与していることを否定しています。
その流れからすると顎関節症の原因として「咬合」は全く関係ないですよということですが、「咬合」が全く関係ないかというと、そうともいえないですよねというのが現在の捉え方です。
咬合状態によっては顎関節への負荷を増大させ筋肉の収縮時間の延長を伴って,咀嚼筋や顎関節へ外傷を引き起こすリスクがあります。 そのため,「咬合」が顎関節症のリスク因子の一つであることは完全には否定できません。
しかし、現在までに行われた研究成果を包括すると,咬合が最も重要な因子となっているという報告は非常に少ないのです。
これらのことから、エビデンス的には顎関節症に「咬合」は関係ないという結論に至っているのです。
現在、我々歯科医師の顎関節症と咬合の関係についての共通認識として、以下の3つが挙げられます。
1) 顎関節症は、臨床症状の類似した業態の異なるいくつかの症型からなる包括的疾患名であること、
2) したがって病因も病態によってあるいは患者ごとに異なっており、多くの場合、様々な生物学的な、あるいは精神社会学的なリスク因子からなる多因子性であること、
3) 症状の自然消退が見込める疾患であるゆえに、まず保存療法を優先させること、
では実際の歯科治療現場ではどのような状況になっているのでしょうか。
顎関節症の原因は「咬合」ではないというコンセンサスが図られているにもかかわらず咬合因子が顎関節症の原因として最重要視され,現在も多くの咬合治療が行われています。
この原因を考察すると、第1に,咬合因子が顎関節症の最も重要な因子であるとした場合,かみ合わせを変える治療は、歯科医師が提供できる治療法としては極めてスタンダードな治療であり,顎関節症の原因としての咬合因子の役割を否定したくない歯科医師が多くいるためと考えられます。
そのような歯科医師が多い原因として、過去から現在においても大学歯学部での基礎や臨床教育が十分に機能していなかったことに加え、研究者から一般臨床家への啓蒙もうまく行われていなかったことが挙げられます。
第2に日本の医療保険の仕組みが影響しております。実際には最も重要な顎関節症の診査診断料や診察料、指導管理料などの保険請求は何も認められておらず,顎関節症を病名としたかみ合わせを削って調整する咬合調整や被せ物の治療といったいったん治療したら元に戻らない不可逆的に介入する治療のみが保険医療として認められていることも影響しています。
顎関節症発症の原因は,生物心理社会学的モデルの枠組みのなかで,病歴聴取を含む臨床的診察や検査結果を詳細にデータとして蓄積し,患者ごとに複数のリスク因子のなかから慎重に推定されなければなりません。したがって非常に多くの時間と労力およびスキルが必要となります。この状況に多くの歯科医師は慣れていないのです。
また,顎関節症の治療のゴールは, 咬合異常を是正することではなく,患者さんの日々抱えている痛みと機能障害を取り除くことに向けられるべきなのです。
重要なことは、我々歯科医師は,顎関節症患者さんの咬合状態が理想的な咬合でないからといって,その「理想的でない」咬合状態が顎関節症発症のもっとも重要な原因であると考え,安易に咬合治療を行ってはいけないことなのです。
明らかに誤った補綴歯科治療が原因となった特別なケースを除いて,治療の第1選択は保存的かつ可逆的治療法であって,咬合治療ではないことを認識しなければならないのです。