⭐嚥下反射と咳反射の障害が誤嚥性肺炎の発症につながる
「誤嚥(ごえん)」に関係する嚥下反射と咳反射は、どちらも気道を守るための重要な防御反射です。
嚥下障害から死に至るまでの期間はおおよそ300日
一般的に、摂食嚥下機能が、加齢や疾患により低下することにより、嚥下反射の障害が生じ、それが咳反射の障害、誤嚥性肺炎へとつながります。
この期間は、おおよそ300日と言われています。
誤嚥性肺炎を発症するとほぼ不可逆性(回復不能)となるので、出来るだけ早く適切なスクリーニング診断と治療を行うことが大切です。
以下に、それぞれの仕組みと誤嚥との関係を詳しく説明します。
🧠 1. 嚥下反射(えんげはんしゃ)
■ 嚥下反射とは
食物や唾液が咽頭に到達した際に、自動的に「飲み込む」動作が起こる反射です。
これは脳幹(延髄)にある嚥下中枢によって制御されています。
■ 主な流れ
- 食塊が舌によって奥(咽頭)に送られる
- 咽頭後壁や軟口蓋、喉頭蓋周囲の感覚受容
器が刺激される - 延髄の嚥下中枢が興奮
- 以下の協調した反応が自動的に起こる:
- 軟口蓋が上がり鼻への逆流を防ぐ
- 喉頭蓋が気道を閉鎖
- 声門が閉じる
- 咽頭・食道の筋肉が収縮し、食塊を食道へ送る
■ 誤嚥との関係
嚥下反射が遅延または低下すると、食塊が気道に流れ込みやすくなります。
特に高齢者や脳血管障害の方では、嚥下反射の反応時間が遅くなるため、誤嚥のリスクが上がります。
「嚥下反射の遅延」はサイレントアスピレーション(無症候性誤嚥)にもつながります。
💨 2. 咳反射(せきはんしゃ)
■ 咳反射とは
気道(喉頭、気管、気管支など)に異物や刺激物が入ったとき、それを外に排出しようとする防御反射です。
こちらも延髄にある咳中枢で制御されます。
■ 主な流れ
- 異物が気道内の感覚受容器(特に喉頭入口部・声門下部)を刺激
- 感覚信号が延髄の咳中枢へ伝わる
- 反射的に以下の反応が起こる:
- 深く吸気
- 声門を一瞬閉じて胸腔内圧を高める
- 声門を急に開き、強く呼気を出す(「咳」)
■ 誤嚥との関係
誤って気道に入った食物や液体を外へ排出する最後の防御機構です。
咳反射が鈍化または消失していると、誤嚥しても咳き込まない(サイレントアスピレーション)状態になります。
これが続くと、誤嚥性肺炎の発症リスクが非常に高くなります。
⚖️ 3. 嚥下反射と咳反射の関係
主な役割
嚥下反射
飲み込み動作で気道を閉鎖する
咳反射
誤って気道に入った異物を排出する
嚥下反射
中枢部位 延髄の嚥下中枢
咳反射
中枢部位 延髄の咳中枢
刺激部位
嚥下反射
嚥下反射咽頭・喉頭入口部
咳反射
気道(喉頭、気管)
反射の低下で起きること
嚥下反射
誤嚥しやすくなる
咳反射
誤嚥後に排出できず肺炎につながる
この2つは連携して働き、
➡ 嚥下反射で「誤嚥を防ぐ」
➡ 咳反射で「誤嚥したら排出する」
という二重の防御を担っています。
🩺 4. 臨床的な観点
高齢者や脳血管障害患者では、両方の反射が低下しやすいです。
嚥下訓練(嚥下反射を高める)や呼吸・咳訓練(咳反射を維持する)は、誤嚥予防の基本となります。
また、ACE阻害薬(高血圧薬の一種)はブラジキニン増加による咳反射亢進を介して、嚥下反射の改善効果が報告されています。


