🔷虫歯治療に用いられるレーザー治療とは?
レーザー治療とは、「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation(誘導放出による光の増幅)」の頭文字をとったもので、特定の波長の光を集中させて照射する治療方法です。虫歯の除去や無菌化、象牙質過敏症の抑制など、多目的に応用されます。
🔶虫歯治療に使用される主なレーザーの種類
レーザー名 | 波長(nm) | 主な作用 | 特徴 |
Er:YAGレーザー | 2,940 nm | 水分吸収 → 蒸散作用 | エナメル質や象牙質の切削に使用可(唯一)、照射時の熱ダメージが少ない |
Er,Cr:YSGGレーザー | 2,780 nm | 水+硬組織への切削 | エルビウム系、切削と殺菌両方可能 |
CO₂レーザー | 10,600 nm | 軟組織に強く反応、止血・凝固 | 歯肉や口腔粘膜の処置に有効、硬組織には適さない |
Nd:YAGレーザー | 1,064 nm | 深部加熱、殺菌効果 | 根管治療・歯周ポケット内への殺菌で使用されることが多い |
ダイオードレーザー | 810〜980 nm | 殺菌・止血・疼痛緩和 | コストが比較的低く、幅広い用途に対応 |
🔷Er:YAGレーザーによる虫歯治療のメカニズム
Er:YAGレーザーは水への高い吸収性を持つため、エナメル質や象牙質内部の水分を急速に蒸散させることで微爆発的に虫歯組織を除去します(フォトメカニカル効果)。また、熱の発生が少なく、神経(歯髄)への影響も最小限に抑えられます。
🔶虫歯治療におけるレーザーの適応と非適応
✅ 適応となるケース
- 小さなエナメル質・象牙質カリエス(C1〜C2程度)
- 初期のう蝕(白濁など)への非侵襲的なリミネラリゼーション補助
- 深在性カリエス除去(Er:YAG + カリエス検知液併用)
- 象牙質過敏症の緩和
- 根管内殺菌(Nd:YAGやEr:YAGの使用)
- カリエス除去後の殺菌目的
❌ 非適応となるケース
- 広範囲の虫歯(大きなC3以上)
- クラウンやインレーなど補綴修復物下のカリエス
- 銀歯(メタル)が近接している場合(光反射や金属過熱のリスク)
- 患者が高額な自由診療に同意しない場合(レーザー治療は保険適用外が多い)
🔷レーザー虫歯治療の利点
項目 | 内容 |
無痛性 | 麻酔なしでも治療可能なケースあり。高周波レーザーでは神経に刺激が少ない。 |
低侵襲 | 健全歯質の切削を最小限にできる。ミニマルインターベンション(MI)に適合。 |
殺菌効果 | 細菌(S. mutansなど)に対する抗菌作用が強く、再発防止にも期待。 |
象牙質再石灰化の促進 | レーザー照射により象牙細管の封鎖・再石灰化が促される報告も。 |
歯周組織や根管にも応用可 | 同一機種で複数治療に対応できる。 |
🔶デメリット・限界
- 治療速度が遅い:通常のタービンに比べて切削効率が低く、治療時間が長くなりがち。
- 保険適用外:虫歯治療目的のレーザーは日本では原則自由診療。
- 初期導入コストが高い:Er:YAGレーザーは機器価格が数百万円。
- 技術習得が必要:焦点距離、照射角度、エネルギー密度など熟練が要求される。
- すべての虫歯に使えるわけではない:症例を慎重に選ぶ必要あり。
🔷科学的根拠(エビデンス)
複数のランダム化比較試験やシステマティックレビューでは、Er:YAGレーザーによる虫歯除去は従来のドリル治療に比べて患者満足度が高く、痛みが少ないと報告されています(例:Hmud et al., 2014; Hibst et al., 2000)。
ただし、長期的な再発率や充填材の接着性に関する結果は研究によってばらつきがあり、レーザー単独での治癒優位性があるとは一概に言えないという見解もあります。
🔶臨床での活用のポイント
- カリエス検知液との併用で削り過ぎを防止
- 小児や歯科恐怖症の患者に最適
- 補綴処置前の殺菌・象牙質処理にも有用
- 補綴やレジン接着との相性を考慮した照射条件(パルス数・出力)選定が必要
🔷まとめ
レーザーによる虫歯治療は、MI(Minimal Intervention)を体現する最先端のアプローチであり、特にEr:YAGレーザーは硬組織処置が可能な唯一のレーザーとして、今後さらに普及が期待されます。
ただし、現状では費用・技術・症例選択といった点で慎重な導入が求められ、従来の機械的切削との使い分けが鍵となります。
★当院では虫歯の治療に対応できるEr:YAGレーザーを用いて治療しております。
Er:YAGレーザーについて深堀していきたいと思います。
◆ エルビウムヤグレーザー(Er:YAGレーザー)とは?
◉ 概要
- 正式名称:Er:YAGレーザー(Erbium-doped Yttrium Aluminum Garnet Laser)
- 波長:2,940nm(ナノメートル)
- 主な作用対象:水と水分を多く含む組織(エナメル質・象牙質・骨・軟組織)
◉ 作用機序(原理)
Er:YAGレーザーは水分への吸収率が非常に高いレーザーです。この特徴により、照射すると以下のような現象が起こります:
- 組織中の水分が瞬間的に蒸発・爆発(マイクロエクスプロージョン)
- これにより、組織が非接触で微細に削れる
- 熱の発生は少なく、周囲へのダメージが少ない
◆ 臨床的応用(歯科)
1. う蝕除去(虫歯治療)
- 健全歯質を最小限に温存しつつ、感染象牙質のみを除去
- タービンに比べて振動・音が少ない
- 痛みが少なく麻酔の必要が軽減
2. 歯周病治療
- 歯周ポケット内のバイオフィルム・歯石の除去
- 歯肉の蒸散(軟組織切除)や歯周ポケットの殺菌
- 骨のリモデリングにも応用
3. 根管治療(Er:YAGレーザー活用の洗浄・殺菌)
- 根管内洗浄(NaOClとの併用)
- 根管壁のスミア層除去と消毒
4. インプラント周囲炎の治療
- インプラント表面に優しくバイオフィルムを除去
- チタンを傷つけにくい性質
5. 骨外科処置
- 骨のトリミング、切除、骨整形など
- 骨面を炭化させずに清潔かつ精密な処置が可能
◆ 他レーザーとの比較
レーザー種 | 波長 | 主な作用対象 | 特徴 |
Er:YAG | 2,940nm | 水分、硬組織、軟組織 | 歯・骨・歯肉すべてに適応。痛みが少ない |
CO₂レーザー | 10,600nm | 軟組織(主に水) | 止血効果が高い。硬組織への応用は不可 |
Nd:YAG | 1,064nm | 色素・血液・組織深部 | 殺菌効果強い。熱による影響がやや大きい |
ダイオード | 800~980nm | 血液・色素 | 軟組織治療や殺菌向き。コンパクトで安価 |
◆ 特徴とメリット
◎ メリット
- 非接触での処置が可能(感染リスク低下)
- 振動・音が少なく患者のストレスが小さい
- 熱の発生が少なく、周囲組織に優しい
- 硬組織・軟組織両方に使用可能(多目的)
- 非常に精密で最小限の侵襲治療ができる
◎ デメリット
- タービンに比べて処置速度が遅いことがある
- 照射距離・角度にシビア
- 装置が高価(約600万円以上)
- 使用時に冷却水スプレー必須(ミスト)
- 操作技術が必要(学習曲線あり)
◆ 安全性
- 水スプレーと同時使用することで組織への熱ダメージを最小限に
- 非接触照射によって器具の摩耗や感染の心配が少ない
- チタンやセラミックなどの補綴物を傷つけにくい
- 医療機器承認を受けたものを使用(日本では厚生労働省承認機器がある)
◆ よく使われる製品(日本国内)
- アーウィン アドベール(Morita製)
- Erwin AdvErL EVO
- Fotona LightWalker(フォトナ社)
- KEY Laserシリーズ(KaVo) など
◆ 保険適用について(2025年現在)
一部適用される処置がありますが、自費治療になるケースがまだ多いです:
処置内容 | 保険適用状況 |
歯周ポケット内のデブライドメント | 条件付きで保険可(歯周基本治療の一環として) |
う蝕除去(レーザー単独) | 原則自費 |
歯肉切除・蒸散 | 自費が多い(ただし条件により対応可能) |
根管殺菌 | 自費扱い |
インプラント周囲炎治療 | 原則自費 |
◆ まとめ:Er:YAGレーザーが「理想的」とされる理由
- タービンやスケーラーでは困難な低侵襲・高精度な処置が可能
- 軟・硬組織の両方に使用でき、汎用性が高い
- 痛みが少なく患者満足度が高い
- 最新の歯科治療においてミニマルインターベンション(MI)の理念と合致