糖尿病と「疲れやすさ(倦怠感)」には密接な関係があります。以下に、医学的な背景を交えてわかりやすくご説明します。
🔍 なぜ糖尿病で「疲れやすくなる」のか?
糖尿病では、血糖値は高いのにエネルギー不足になってしまうのが大きな特徴です。これが「疲れやすさ」を引き起こす主な原因です。
✅ 主なメカニズム
1. 糖が細胞に取り込めない(エネルギー不足)
- 通常、食事で摂った糖はインスリンの働きで細胞に取り込まれ、エネルギー源として使われます。
- 糖尿病では、インスリンの分泌不足や効きが悪くなるため、糖が血液中にあふれ、細胞に届かなくなります。
- その結果、**「エネルギーが足りない=常にだるい、疲れる」**状態になります。
2. 脱水による倦怠感
- 高血糖により尿量が増える(多尿)と、水分や電解質が体外に失われます。
- これにより脱水や電解質の乱れが起こり、疲れやすくなったり、頭がぼーっとする、集中力が落ちるといった症状が現れます。
3. 筋肉量の減少
- エネルギーが不足すると、体は筋肉や脂肪を分解してエネルギーを補おうとします。
- 結果的に筋肉が減り、より疲れやすい体質になります。
4. 睡眠の質の低下
- 夜間頻尿(トイレが近い)や糖尿病に関連する神経障害で、眠りが浅くなり疲労感が残るケースもあります。
💡 特徴的な疲れ方の例
状況 | 疲れの感じ方の例 |
朝から疲れている | エネルギー不足・睡眠の質低下 |
食後に強い眠気や倦怠感 | 血糖値の急上昇や乱高下 |
軽い運動でもすぐ疲れる | 筋力低下・糖利用障害 |
慢性的にだるい・集中できない | 慢性的高血糖・脱水 |
🛑 放置するとどうなる?
疲労感が続く状態を放置すると、さらに食事・運動などの生活習慣が乱れ、**血糖コントロールが悪化 → さらに疲れる → 動かない…**という悪循環に陥る可能性があります。
🩺 疲れやすさを感じたらどうすればいい?
- 健康診断で血糖やHbA1cをチェック
- 生活習慣(特に食後の眠気)を見直す
- 水分補給や適度な運動を取り入れる
- 糖尿病治療中の方は、薬の見直しも必要な場合があります
糖尿病で薬の管理しているのに、疲れやすく眠くなるのはなぜでしょう
糖尿病の治療で薬をしっかり管理しているのに、**「疲れやすい」「眠くなる」**という症状が続いている場合、以下のような原因が考えられます。いずれも比較的よく見られるケースです。
🔍 主な原因とメカニズム
1. 血糖値の「急な変動」や「低血糖」
- ✅ 急に血糖値が下がると、強い眠気・倦怠感が起こります。
- 特に薬(インスリンやSU薬など)で血糖値をコントロールしている人は、低血糖に注意が必要です。
- 血糖値が正常でも、急に下がることで脳がエネルギー不足になり、眠気やだるさを感じやすくなります。
💡 低血糖のサイン:眠気、冷や汗、ふるえ、集中力の低下、空腹感、頭痛
2. 血糖値が高めで安定しているが、細胞がエネルギーを使えていない
- 血糖コントロールがされていても、インスリン抵抗性(インスリンは出ているが細胞が反応しにくい)があると、糖がうまく使われずエネルギー不足になります。
- その結果、疲れやすく、特に食後に強い眠気が出ることがあります。
3. 薬の副作用
- 一部の糖尿病薬(例:グリメピリド、インスリン)では低血糖が起こりやすいです。
- また、DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬でも、一部の人に眠気や倦怠感が現れることがあります。
- 利尿作用のあるSGLT2阻害薬では、脱水によりだるさを感じることもあります。
4. 合併症や他の疾患の影響
- 糖尿病神経障害によって自律神経の働きが低下すると、日中に眠くなる、疲れやすいといった症状が出ることがあります。
- また、**睡眠時無呼吸症候群(SAS)**などの合併も糖尿病患者には多く、これが原因で眠気・疲労感が強くなることもあります。
5. 生活リズムやストレス、栄養不足
- 食事のタイミングがずれていたり、炭水化物が多すぎたりすると、血糖の乱高下が起こり、眠気が強くなります。
- 栄養の偏りや、タンパク質・ビタミン不足も疲労を助長します。
- 加えて、精神的ストレスや睡眠の質の低下も大きく影響します。
✅ 対応のポイント
症状 | チェックポイント | 対応 |
日中の強い眠気 | 低血糖の可能性 | 血糖測定・補食を検討 |
食後すぐ眠くなる | 血糖の急上昇 | 食事の内容・量の見直し |
慢性的な倦怠感 | 貧血・甲状腺・他の疾患も鑑別 | 医師に相談、血液検査を考慮 |
夜よく眠れない | 睡眠時無呼吸の疑い | 睡眠外来の受診も視野に |
📌 まとめ
「薬をきちんと使っていても疲れやすい・眠くなる」のは、血糖値の急変動や低血糖、エネルギー利用効率の低下、薬の副作用、他の病気の影響などが関係していることが多いです。
→ 一度、血糖変動(食後血糖・夜間血糖)や日内の体調の変化を記録して、主治医に相談するのが最も確実です。
糖尿病治療に使われる DPP-4阻害薬 と GLP-1受容体作動薬 には、以下のような代表的な**商品名(製品名)**があります。日本国内で使用されている主な薬剤を中心に紹介します。
✅ DPP-4阻害薬(DPP-4 inhibitor)
インスリンの分泌を促すホルモン「インクレチン(GLP-1など)」を分解する酵素「DPP-4」を阻害し、食後血糖を改善します。
一般名(成分名) | 商品名(製品名) | 製薬会社 |
シタグリプチン | ジャヌビア®/グラクティブ® | MSD/興和 |
ビルダグリプチン | エクア® | ノバルティス |
アログリプチン | ネシーナ® | 武田薬品 |
リナグリプチン | トラゼンタ® | 日本ベーリンガー |
テネリグリプチン | テネリア® | 田辺三菱製薬 |
アナグリプチン | スイニー® | サノフィ/興和 |
サキサグリプチン | オングリザ® | アストラゼネカ |
✅ GLP-1受容体作動薬(GLP-1 receptor agonist)
インクレチンそのものを補う薬で、血糖値に応じてインスリン分泌を促進し、グルカゴンを抑制します。体重減少効果も期待されます。
一般名(成分名) | 商品名(製品名) | 投与方法 | 製薬会社 |
リラグルチド | ビクトーザ®/サクセンダ®※ | 皮下注(1日1回) | ノボ ノルディスク |
デュラグルチド | トルリシティ® | 皮下注(週1回) | 日本イーライリリー |
セマグルチド | オゼンピック®(注射) リベルサス®(経口) | 週1回注射/経口薬 | ノボ ノルディスク |
エキセナチド | バイエッタ®(1日2回) ビデュリオン®(週1回) | 皮下注 | アストラゼネカ |
※サクセンダ®は肥満症の治療薬として使用され、糖尿病治療薬としての保険適用はありません。
💡 注意点
- DPP-4阻害薬は飲み薬で比較的副作用が少ないですが、**GLP-1受容体作動薬は注射薬(ただしリベルサス®は内服)**が中心です。
- 両者は併用されることもありますが、効果や副作用のバランスを見ながら調整されます。
- GLP-1作動薬は体重減少作用があるため、肥満を伴う糖尿病患者に特に有効です。
SGLT2阻害薬の商品名
SGLT2阻害薬(SGLT2インヒビター)は、腎臓での糖の再吸収を阻害し、尿中に糖を排泄させることで血糖を下げる新しいタイプの糖尿病治療薬です。体重減少・血圧低下・心腎保護などの効果も期待されています。
以下は、日本で承認・使用されている代表的な SGLT2阻害薬の商品名 です:
✅ SGLT2阻害薬の主な製品一覧(日本国内)
一般名(成分名) | 商品名(製品名) | 製薬会社 |
ダパグリフロジン | フォシーガ® | アストラゼネカ |
エンパグリフロジン | ジャディアンス® | 日本ベーリンガーインゲルハイム/日本ベーリンガー |
イプラグリフロジン | スーグラ® | アステラス製薬 |
トホグリフロジン | アプルウェイ®/デベルザ® | サノフィ/興和創薬 |
ルセオグリフロジン | ルセフィ® | 大日本住友製薬 |
カナグリフロジン | カナグル® | 田辺三菱製薬 |
💡 SGLT2阻害薬の特徴と注意点
✅ 主なメリット
- 食後・空腹時を問わず血糖を安定させる
- 体重減少効果(尿から糖を出すため)
- 血圧低下作用(軽度の利尿作用あり)
- 心不全や慢性腎臓病(CKD)に対する保護効果(一部薬剤で適応追加済)
⚠️ 注意すべき副作用
- 脱水、頻尿
- 尿路感染・性器感染症(特に女性)
- ケトアシドーシス(特にインスリン併用時)
- 高齢者では転倒・低血圧に注意
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トラディアンス配合錠(2型糖尿病治療薬)の概要とエビデンス
1. どんな薬?
- トラディアンス配合錠は、**SGLT-2阻害薬(エンパグリフロジン)**と、**DPP-4阻害薬(リナグリプチン)**を一つにまとめた配合錠です。
- SGLT-2阻害により、尿中へのグルコース排出を促し血糖を低下させます。
- DPP-4阻害により、「インクレチン」の分解を抑えてインスリン分泌を促し、血糖コントロールを改善します。
2. 適応と使い方
- 2型糖尿病に対し、エンパグリフロジン単独やリナグリプチン単独では効果が不十分な場合に使用されることが多いです。第一選択薬ではありません。
- AP錠(5 mg+10 mg)、BP錠(5 mg+25 mg)の2種類があります。
3. 副作用・注意点
- 主な副作用には、以下のような症状があります:
- 膀胱炎、便秘、頻尿などの排尿関連症状
- 重大な症状として、以下が報告されています。これらは現れた際には直ちに医師へ相談が必要です:
- 低血糖(空腹感・めまい・冷汗など)
- 脱水(体の倦怠感・尿量減少など)
- ケトアシドーシス(腹痛・呼吸困難など)
- 尿路感染/壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)
- 腸閉塞、肝機能障害
- 皮膚症状(びらん・紅斑など)
- 間質性肺炎、急性膵炎
4. 禁忌・使用上の注意
- 以下の患者には使用が適しません:
- 本剤成分への過敏症のある方、1型糖尿病、ケトアシドーシス既往、重症感染症・外傷・手術後など。
- 使用中は脱水・低血糖などの兆候に注意し、症状があればすぐに医師・薬剤師に相談するよう指導されています。
まとめ
「トラディアンス配合錠」は、2型糖尿病の血糖コントロールに強力な効果が見込まれる一方で、低血糖や感染症、脱水、膵炎などの重大な副作用のリスクも伴う処方薬です。使用にあたっては、医師の判断に基づく適応、および患者さんの慎重な服薬フォローが不可欠です。