「メチルトラップ現象(methyl trap)」は主にビタミンB12(コバラミン)と葉酸(フォレート)代謝の関係に関わる生化学的な現象で、歯科領域では口腔粘膜炎、舌炎、味覚障害、口角炎、口腔乾燥などと深く関わっています。
🔬メチルトラップ現象とは
① 正常な葉酸・ビタミンB12の代謝経路
葉酸は体内で テトラヒドロ葉酸(THF) に変換され、DNAやRNA合成に必要な「一炭素代謝」に関わります。
ビタミンB12は メチルテトラヒドロ葉酸(メチル-THF) からホモシステインをメチオニンに変換する反応を助けます(メチオニン合成酵素の補酵素)。
② B12欠乏で起こる「メチルトラップ」
ビタミンB12が不足すると、この反応が進まず、メチル-THFが再利用できなくなり、
葉酸が「メチル型」で閉じ込められてしまいます。
→ これが メチルトラップ現象 です。
結果的に、細胞内で利用可能な葉酸が減り、DNA合成が障害されるため、
細胞分裂の盛んな組織(骨髄・粘膜上皮など)が障害を受けます。
🦷歯科との関係
① 口腔粘膜の変化
葉酸・B12欠乏により、口腔粘膜の上皮更新が遅れ、萎縮やびらんが生じやすくなります。
代表的症状:
・萎縮性舌炎(ハンター舌炎):舌乳頭が消失し、平滑・紅色化
・口角炎
・口内炎の再発
・味覚障害
・口腔乾燥感
② 義歯など補綴治療との関連
粘膜の萎縮や炎症により義歯の適合が悪くなり、義歯性潰瘍や義歯性口内炎の悪化要因となることがあります。
③ 高齢者や菜食者に多い
高齢者では胃酸分泌低下によるB12吸収障害(内因子不足)が多く、
メチルトラップ→粘膜異常→口腔症状が出やすい。
また、完全菜食(ヴィーガン)の方ではB12摂取不足によるリスクが高まります。
💉臨床的な歯科での対応のポイント
見られる症状
舌炎、口角炎、びらん、潰瘍、味覚異常、義歯不適感
疑われる背景
高齢、妊婦、胃切除、菜食、貧血、消化器疾患
検査
血中B12・葉酸値、MCV上昇(巨赤芽球性貧血の指標)
対策
医科連携によるB12補充、葉酸併用、栄養指導、妊婦前の指導、妊婦への指導
🩺まとめ
🧩【栄養学的まとめ】
・現象名
メチルトラップ現象
・原因
ビタミンB₁₂欠乏による葉酸代謝の機能停止
・結果
DNA合成障害 → 巨赤芽球性貧血・粘膜障害
栄養素の関係 B₁₂と葉酸は相互依存関係にある
・臨床的意義
栄養指導・サプリメント選択・高リスク群(高齢者・菜食者・妊婦)の管理と栄養指導に重要


