かみ合わせの記録(詰め物や被せ物を作る場合における)
今回は、かみ合わせの記録「バイト」について大学の学生教育レベルまで深堀していきたいと思います。講義のようで少し難しいと思いますが、興味ある方は読んでみてください。
歯医者で型取りした際、「バイト」って言葉をスタッフが言っているのを耳にしたこともあるかと思います。
その「バイト」とは「咬合採得」のことで、歯医者が用いるbite takingの略語でBTと記載されます。
「アルバイト」の略語ではありません。
「バイト」「BT」は主に保険診療に必要な略語として定着しております。
まずかみ合わせのどの位置が安定したかみ合わせなのかを確認して、その場所をワックスやシリコーンを用いて記録するのです。
この記録した材料を用いて上下の歯列模型を固定してその位置に忠実に被せ物を作っていくことになります。
かちってかんだ時の安定する場所が「咬頭嵌合位」と言われる場所です。
大学教育など学術的には、かみ合わせの記録は、顎間関係の記録(咬合採得)と言われ、英語では、maxillomandibular registrationとなります。
ワックスバイト
シリコーンバイト
かみ合わせの記録 = 顎間関係の記録(咬合採得)
咬合とは、上下顎の歯の接触のことを言います。
上顎に対する下顎の空間的位置関係 ⇒顎間関係
上顎に対する下顎の空間的位置関係を記録したもの ⇒顎間記録(顎間関係記録)
咬合採得とは? ⇒顎間関係を測定(決定)、記録する操作です。
咬合器を使用して補綴装置の製作や咬合診断を行う場合には、顎間関係を測定、記録することが必要不可欠です。この操作を咬合採得と呼び、頭蓋に対する顎と歯の相対的位置関係、および各種下顎位や下顎運動を咬合器上に再現するための一つの重要なステップです。
咬合採得の3つのステージ
1 頭蓋に対する上顎歯列の3次元的位置関係の記録
⇒フェイスボウトランスファー
2 上下顎歯列間の咬頭嵌合位における位置関係の決定と記録⇒咬合採得
3 咬合器の顆路を決定するための偏心咬合位の記録
⇒チェックバイト法、パントグラフ法
咬合関係の決定と記録の流れ
臨床操作における咬合採得の流れ
(1) 顎間関係の記録
・口腔内での上下顎の咬合状態を記録します。
・口腔内での下顎の動きを記録します。
(2) フェイスボウによる記録
・口腔内における歯列の位置を、咬合器に移します。
(3) 咬合器装着
・フェイスボウトランスファーによる上顎模型の装着をします。
・インターオクルーザルレコードによる下顎模型の装着をします。
(4) 咬合器の調整
・チェックバイト法、パントグラフ法
★インターオクルーザルレコード=上下顎歯列または顎堤間の位置関係の記録⇔顎間記録(顎間関係記録)とは同義語です。
★基準の下顎位の決定⇒その位置でインターオクルーザルレコード(バイトレコード)を採得~この一連の操作を咬合採得と言います。
下顎位(上顎に対する下顎の占める位置)を決定して記録 ⇒ 咬合採得
この場合に対象となる下顎位が「咬頭嵌合位」
代表的な下顎位として~咬頭嵌合位、中心位、下顎安静位、下顎後退位、偏心咬合位などがあります。
★ 咬頭嵌合位(中心咬合位):上下顎歯の相対する咬頭と窩や斜面とが最大面積で接触し、咬頭が厳密に嵌合して安定した状態にある下顎位。
1)健常歯列では、下顎の機能的基準位。
2)顆頭が下顎窩内で最も安定した位置(顆頭安定位)にある。
3)顎口腔系に異常のない正常有歯顎者では、中心咬合位≒筋肉位。
4)咀嚼運動の運動サイクルの終末位と一致。
5)歯によって決定される位置
・中心位
定義は「下顎頭が下顎窩内で関節円板の最も薄く血管のない部分に対合し、関節結節の斜面と向き合う前上方の位置」となっていますが、下顎頭の位置に関して諸説があり解釈が明確ではありません。ターミナルヒンジポジション(終末蝶番位)と同義語です。
1)中心位は歯の存在とは無関係に成立する。
2)咬合の不安定な場合でも、咬頭嵌合位が消失されているよう
な症例でも計測可能。
・下顎安静位
下顎は一連の下顎運動が終了したあとに上顎との間でほぼ一定の距離を保って静止し、再びその位置から運動を始める。このような下顎の静止位をいいます。
補綴学的基準となる下顎位で、生涯を通じて比較的恒常性が高いことから,無歯顎者に対する全部床義歯の咬合高径を決定する1つとして用いられています。
・下顎最後退位
1)随意的にとりうる下顎の最後退位
2)ゴシックアーチの頂点と一致
3)歯とは無関係の位置
4)中心位と同義語
・偏心位
中心咬合位または中心位から、下顎を水平的に移動させた時の下顎の位置
前方位、側方位、後方位
●咬頭嵌合位(中心咬合位)の決定
1 残存歯列により適正な咬頭嵌合位が維持されている場
合
1)患者さんの感覚
2)模型を咬合させて一番安定するところ
左右臼歯部、前歯部ともに咬合接触関係があり、咬頭嵌合位が安定している場合、患者さんの感覚や上下顎模型の安定度に基づいて行われます。
◆必要に応じて咬合紙やシリコーンゴム印象材による検査
オクルーザルレジストレーションストリップスを用いた引き抜き試験が行われます。
*患者さん自身の感覚によって咬頭嵌合位を決定する場合は、『左右の奥歯でしっかり噛んでください。』と指示することによって咬頭嵌合位が誘導されることが多いです。また、予めタッピング運動などの習慣性開閉口運動や唾液の嚥下を指示し、患者さん自身にその顎位を事前に認識してもらうとよいでしょう。
2 残存歯列により適正な咬頭嵌合位が維持されていない場合
適切で再現性のある咬頭嵌合位が失われている場合
1 多数歯に及ぶ歯の欠損
2 咬合接触が前歯部のみ
3 不適正な低位咬合
4 咬頭嵌合位が不安定
5 支台歯が多数
★決定する順番は?
①適切な咬合高径の決定
その後 ②水平的下顎位を決定する
・咬合高径の決定法
①安静空隙を利用した方法 ②顔面計測法 ③ X線セファログラムによる方法
・顔面計測法~咬合高径(鼻下点・オトガイ底間距離)に近似する顔面上の標点を計測する方法
・水平的顎位決定法
①タッピング運動の終末位 ②下顎最後退位 ③筋肉位 ④嚥下位
・ タッピング運動~開口量の少ない反射的な開閉口運動≒咬頭嵌合位
・ 筋肉位~下顎安静位付近から反射的に閉口したときの水平的下顎位≒咬頭嵌合位
・ 嚥下位~嚥下時の下顎位≒咬頭嵌合位
適切な咬合高径の決定
・安静空隙を利用する方法
・顔面計測法
・エックス線セファログラム
など
*適切な咬合関係が維持されていない場合の咬合高径の決定方法は、主に総義歯のそれに準じます。また、これらの方法は正確ではないので、いくつかの方法を組み合わせて用いることになります。
咬合高径の決定:顔面計測法
■Wills法
・瞳孔か口裂までの垂直距離と鼻下点からオトガイまでの垂直距離が等しい。a1=a2
■MacGee法
・眉間正中点から鼻下点までの垂直距離
・瞳孔から口裂までの垂直距離
・口裂線の弯曲に一致した左右口角間距離
のいずれも、または2つが等しければ、その値=鼻下点からオトガイ底までの垂直距離
b1=b2=b3またはb1=b2,b1=b3,b2=b3であればその値をa2とします。
他に、Bruno法(c1=c2)、Buyanov法(d1=d2)、坪根法などがあります。
■安静位空隙を利用する方法
下顎が安静位にあるとき、鼻下点からオトガイまでの距離は、適正な咬合高径に安静空隙量(2~4㎜)を加えた値に一致します。これをもとにして咬合高径を求めます。
■エックス線セファログラム
セファロ分析を行い、患者さんの咬合平面を確認することによって、咬合高径の決定の際の参考とします。
水平的な下顎位の設定
■中心位
関節窩の中で緊張することなく前上方に位置したときの顆頭位です。正常咬合を営む者では、一般的に咬頭嵌合位よりも1㎜程度後方に位置します。
■筋肉位
咀嚼筋群が協調的に活動した状態で、下顎安静位から閉口することによって得られます。
■嚥下位
嚥下動作の第1相における下顎位。有歯顎者では咬頭嵌合位付近に位置するとされています。
■タッピング運動の終末位
下顎安静位より少し大きな開口位からタッピング運動(反復開閉口運動)をさせ,水平的顎間関係を習慣的な閉口位を用いて決定する方法です。
タッピング運動の終末位は咬頭嵌合位と一致するとされ、臨床で利用されることが多いです。
■ゴシックアーチ描記法
・下顎運動の記録法のひとつで、定められた咬合高径における下顎の左右の側方限界運動の軌跡を描記させ方法で、口内描記法と口外描記法があります。
インターオクルーザルレコードに用いる材料
①ワックス ②シリコーンゴム印象材 ③ポリエーテルゴム印象材 ④印象用石膏 ⑤酸化亜鉛 ⑥コンパウンド
ワックス
☆最も臨床の場で用いられている材料です。
適応 | 咬頭嵌合位の安定した症例 |
特徴 | 軟化が容易で、咬頭嵌合位に繰り返して、しっかり咬ませることができます。 しかし、軟化しても流動性が低く、咬合時の抵抗性が高く、変形しやすいので口腔内から撤去するときには十分硬化させ、咬合の確認時まで温度変化を与えないように注意する必要があります。咬頭嵌合位の安定した症例に用いられます。 |
シリコーンゴム
☆ワックスより正確です。
適応 | すべての症例 |
特徴 | ◇シリコーンゴム印象材(パテタイプ) 弾性ひずみ、変形量が小さいので精度は良いです。また、寸法安定性と強さがあります。しかし、パテタイプはベースとキャタリストを練和する際に誤差が生じやすく、咬合時に抵抗性があり、硬化後も多少弾性があるなどの欠点があります。 ◇シリコーンゴム印象材(インジェクションタイプ) 寸法精度に優れ、弾性ひずみも小さい付加型のものが咬合採得材として用いられ、前記の咬合採得材の用件を最もよく満たしています。最近では、インジェクションタイプのものが主流で、カートリッジ内のベースとキャタリストがガンタイプのディスペンサー先端から自動的に練和された状態で出てくるため、操作性がよいです。また、先端のチップがディスポーザブルなので、非常に衛生的です。 |
ポリエーテルゴム
適応 | 現在はほとんど用いられていません。 |
特徴 | 練和したペーストを注入器で下顎歯列上に注入し、咬頭嵌合位で咬み込ませます。硬化後、記録の寸法変化は小さく、弾性があるため壊れにくいが、模型との適合性に難があり、独特の苦味があるため、最近はあまり用いられていません。 |
*石膏、酸化亜鉛について
最後臼歯を含む欠損補綴の咬合採得の際、遠心の隙間を埋めるように使用し、咬合採得の精度を上げます。
石膏
適応 | クリアランスが大きいすべての症例、臨床ではあまり使われていません。 |
特徴 | 熱膨張係数がパラフィンワックスなどと比べると小さいため、精度に優れ、トリミングも容易です。また、咬合時の抵抗感も少なく、硬化後に弾性がないため、模型を一定の位置に固定できます。 しかし、味が悪い、唾液の侵襲を受けやすい、咬ませるタイミングが難しい、材質が脆いので薄い部分が欠けやすいという欠点があります。 |
酸化亜鉛
適応 | 咬合床を用いた咬合採得 |
特徴 | 材料は硬化すると非弾性であり、寸法変化も小さく安定しています。また、咬合時の抵抗感も少ないです。記録は細部までとれるため、咬頭頂を残して隣接部や列溝部分はエバンスなどで除去しておきます。 単独あるいはワックスと併用して用いられますが、硬化後の硬さが十分でなく、トリミングも難しいのが最大の欠点です。咬合床を用いた咬合採得では現在でも好まれて用いられる。 |
咬合採得に使われる材料の要件
■寸法精度に優れていること
上下顎の模型に対するバイト材の適合精度は、そのままクラウン咬合面の精度に影響します。
硬化膨張や熱膨張が大きい材料は不適です。
■咬合時の抵抗性が少ないこと
咬合時に抵抗感のある材料では、下顎が偏位したり、最後まで噛み切れなかったりする可能性があります。
■硬化時間が短いこと
硬化時間が長いと、患者の苦痛が大きいだけでなく、その間に下顎が微妙に偏位したりします。
材料によっては唾液の侵襲を受け、変質する可能性もあります。
■硬化後の経時的な寸法変化が少ないこと
バイト材が実際に使われるのは、模型が出来上がってからで、時には技工所に送り届ける時間も必要です。その間に変形する材料は適していません。
■硬化後に十分な硬さを備えていること
バイト材の上に石膏歯列模型が載るので、その重さに耐えられなければなりません。
トリミング時に破折する材料は適していません。
咬合採得に使われる材料の種類
■非弾性材料
・ワックス
・石膏
・酸化亜鉛ユージノール
・コンパウンド
■弾性材料
・ゴム系印象材(シリコーン、ポリエーテル)
●咬頭嵌合位(中心咬合位)の記録
1 模型を利用した記録
咬合が安定している場合のみ有効です。
安定した位置で仮固定して咬合器に付着します。
2 インターオクルーザルレコード(バイトレコード)の採得
上下顎歯列間に材料を介在させ採得します。
咬頭嵌合が安定している場合
◆インターオクルーザルレコードとは
上顎歯列または顎堤間の位置関係の記録をインターオクルーザルコードと言います。
補綴装置を製作する場合や、咬合器上で咬合検査を行う場合には、まず基準となる下顎位を決定し、その位置でインターオクルーザルコードを採得する必要があります。ワックスやゴム系印象材などで記録します。
◆インターオクルーザルレコード採得の術式
・まず患者さんの顎位を、フランクフルト平面と床が平行になるように調節します(座位)。
・シリコーンゴム印象材の準備をします。
・患者さんに口を開閉してもらい、咬頭嵌合位を確認します。
・ガンを握って、下顎歯列咬合面全体にシリコーンゴム印象材を注入します。(作業時間は約30秒)
・印象材が硬化するまで、咬頭嵌合位でしっかり咬ませます(口腔内保持時間は約60秒)。
・硬化後口腔内より取り出して正確なインターオクルーザルレコードが採得できているか確認します。
・過剰採得部分(歯肉や歯冠側壁部)やアンダーカットをエバンスなどで除去します。
欠損歯数が多い、支台歯数が多い場合 ⇒咬合床を用います
残存歯どうしの咬合接触がない場合
欠損歯数や支台歯数が多い場合は、咬合床や使用中の義歯、テンポラリーブリッジを用いて咬合採得を行います。
■テンポラリーレストレーションを用いた咬合採得
例えば・・・
上顎にプロビジョナルレストレーション(仮歯)が入っている。
(この段階では、咬頭嵌合位のズレがある場合あり。顎位が不安定な場合一度で咬頭嵌合位を決定することは難しい)
↓
下顎歯列の最終補綴物を完成させる。
↓
上顎のプロビジョナルレストレーション(仮歯)にレジンを添加修正しつつ再度、下顎位(咬頭嵌合位及び偏心位)の模索を行う。
プロビジョナルレストレーション(仮歯)によって決められた下顎位を咬合器にトランスファーする。
↓
上顎の最終補綴物を製作する。
■咬合床を用いた咬合採得
咬頭嵌合位が安定していても、欠損指数が多い場合や支台歯の数が多い場合には、咬合床や使用中の義歯を使用して、上下顎歯列の相対的位置関係を記録することがあります。
この場合は咬頭嵌合位で咬合させた義歯あるいは咬合床が、欠損した歯の代わりもしくはインターオクルーザルレコードとなります。
3 咬合印象
支台歯と対合歯およびその咬合関係を同時に採得する印象です。
●頭蓋に対する上顎歯列の3次元的位置関係の記録
・フェイスボウ
頭蓋(顎関節)に対する上顎歯列の位置関係を咬合器上に再現するために用いる装置です。
生体の開閉軸と咬合器の開閉軸を近似的にします。
1 基準点
① 前方基準点(後方基準点以外の顔面上の1点)~眼窩下点、鼻下点などが用いられます。
②後方基準点(下顎の開閉軸が顔面の皮膚と交わる点)~平均的顆頭点(外耳道、耳珠上縁、外眼角などの皮膚上の点を利用)を利用します。
2 フェイスボウトランスファー
生体で頭蓋に対する上顎歯列の位置関係を記録し、咬合器に移すことです。
●咬合器の顆路を決定するための偏心咬合位の記録
1 チェックバイト法 2 パントグラフ法
1 チェックバイト法
1)クリステンセン現象を利用します。
2)複雑な装置を必要としません。
3)顆路は直線で表されます。
4)半調節性咬合器の調整に用います。
使用材料~ワックス、石膏、シリコーン系印象材、コンパウンド、亜鉛華ユージノールペーストなど
2 パントグラフ法
1)全調節性咬合器の調整に用います
2)下顎の限界運動を三次元的に記録可能にします。
3)口外描記装置を用います。
以上が咬合採得の概要と一連の流れとなります。
ここまで読んでいただいてから最初のまとめの説明を読んでいただくとBITEとはどういうものなのかがわかりやすくなると思います。
患者さんには最初の部分だけ理解していただければ十分と思います。