🦷オーラルフレイルと歯科の介入についてくわしく解説
【1】オーラルフレイルとは
● 定義(日本老年歯科医学会・日本歯科医師会などによる)
オーラルフレイル(Oral Frailty)は、「加齢に伴う口腔機能の軽微な衰え」から始まり、それが進行することで咀嚼・嚥下・発話・社会的活動に障害をもたらし、フレイルや要介護状態へとつながる過程を指します。
【2】オーラルフレイルの4つの段階(連続的プロセス)
段階 | 特徴 | 例 |
① 口腔の加齢変化 | サルコペニアや乾燥など | 加齢性舌筋減少、唾液分泌低下 |
② 口腔機能の軽微な低下 | 気づかれにくい変化 | 滑舌の悪化、咀嚼力の低下 |
③ 口腔機能低下症 | 複数の機能の明らかな低下 | 厚労省が診断基準を制定(後述) |
④ 口腔機能障害 | 嚥下障害や構音障害を含む | 食べこぼし、誤嚥、窒息リスク |
【3】口腔機能低下症の診断基準(厚労省 2018年)
以下の7項目のうち、3項目以上で「口腔機能低下症」と診断されます
評価項目 | 判定指標 |
1. 口腔衛生状態 | 口腔内細菌数増加など |
2. 口腔乾燥 | 唾液量低下、ドライマウス |
3. 咬合力 | 義歯不適合、残存歯数 |
4. 舌口唇運動機能 | オーラルディアドコキネシス(ODK) |
5. 発音の明瞭度 | パ行の発音など |
6. 舌圧 | 舌圧測定器で40kPa未満 |
7. 嚥下機能 | EAT-10などの評価 |
【4】オーラルフレイルのリスクと影響
- 低栄養:咀嚼・嚥下困難 → 食事摂取量の減少 → BMI低下
- サルコペニア・全身フレイル:筋力低下 → ADL低下
- 社会的孤立:滑舌不良や構音障害 → 会話困難 → 孤立
- 誤嚥性肺炎のリスク増加:咽頭残留、誤嚥、咳反射低下
- 要介護状態への移行:日常生活動作の制限、入院・施設入所
【5】歯科からの主な介入アプローチ
◆ 1. 評価・スクリーニング
- オーラルフレイル健診(健口健診)
- 簡易チェックシート(例:オーラルフレイル簡易質問票)
- ODK(オーラルディアドコキネシス):ぱ・た・か発音/秒
- 舌圧測定器:舌圧計により定量評価
◆ 2. 歯科治療による機能回復
- う蝕・歯周病治療:痛みや動揺で咀嚼障害 → 早期治療で改善
- 義歯調整・作製:咬合力回復、構音改善
- 咬合再構成:機能的咬合の確立、食塊形成能の回復
◆ 3. リハビリ・訓練(口腔機能訓練)
- 咀嚼筋トレーニング(硬いガム・チューブ嚼雑)
- 舌・口唇の運動訓練(舌回し、パタカラ体操)
- 発声・発語訓練(音読、早口言葉)
- 嚥下訓練(空嚥下、嚥下体操)
◆ 4. 口腔衛生の徹底
- 専門的口腔ケア(POHC):バイオフィルム除去、歯周ケア
- 舌苔除去:舌ブラシ使用
- 唾液腺マッサージ・保湿剤:乾燥対策
◆ 5. 多職種連携
- 医師、歯科医師、歯科衛生士、管理栄養士、言語聴覚士、介護職との連携
- 地域包括ケアシステムの一環として、歯科の継続介入が重要
【6】歯科が果たすべき役割
項目 | 内容 |
早期スクリーニングと生活指導 | |
機能回復 | 義歯調整、補綴、口腔リハビリ |
教育 | 地域住民・施設職員への啓発活動 |
地域貢献 | 健康教室、出張健診、訪問歯科 |
多職種協働 | 医科・介護職と連携した包括ケア |
【7】オーラルフレイルを防ぐための歯科的アドバイス(患者さん向け)
- 1日3回、よく噛んで食事をする(30回以上目標)
- 会話を楽しむ習慣をつける
- 舌や唇をよく動かす(体操や発声)
- 口の中の乾燥を防ぐ(唾液腺マッサージ、加湿)
- 歯が抜けたままにしない(義歯装着を含む)
- 定期的な歯科健診とプロフェッショナルケアを受ける
【8】まとめ
・オーラルフレイルは高齢者のQOLと生命予後に密接に関わる重要な概念です。
・歯科は、単なる「歯の治療」にとどまらず、全身の健康と社会的参加を支える重要な役割を担っています。
・予防・早期発見・機能回復・維持管理のすべての段階で、歯科からの積極的な介入が求められています。