★感染予防のための印象採得後の処理 について詳しく説明いたします。
我々歯科医療関係者が、日々、感染対策にどう取り組んでいるかの一端をご説明いたします。
基本的な考え方として、歯科医療の現場ではスタンダードプリコーション(標準予防策)の普及に積極的に取り組んでおります。
スタンダードプリコーションは、①血液、②体液、排泄液、分泌物(汗は除く)、③傷のある皮膚、④粘膜との接触に適用されます。
歯科における感染対策で、唾液は潜在的な感染物質と考えられております。
補綴歯科治療に限れば、印象採得物(以下印象体)、試適後の補綴装置は体液で汚染されておりスタンダードプリコーションの対象となります。
この要点は、全ての患者さんに適用される感染対策の徹底および感染の連鎖を遮断することにより感染症の伝播を防ぐことにあります。
感染経路の特定と感染経路別の対策が特に重要となります。
ここでは特に補綴歯科治療に関わる印象体と石膏模型について説明いたします。
採得した印象体を薬液に浸漬して科学的に消毒するのが一般的です。
消毒の効果は、消毒剤の種類、濃度、作用時間によって決まりますが、薬剤に強い抵抗性をもつ細菌やウイルス(HBV)に有効な処理条件を選択することが確実な感染予防のために必要です。
消毒剤の効果を確実にするために、印象表面を流水でよく洗い流し付着した血液や唾液を十分に除去することが先決です。
印象体の感染対策は、その材料特性から消毒レベルにとどまり、消毒方法も他の材料・器具に比較して特殊です。
印象体は、製作する模型の寸法精度や表面性状に影響しないように消毒効果が最も大きく効果的な方法を選択する必要があります。
・印象表面を流水下でよく洗浄(アルジネート印象材の場合、約120秒以上。シリコーン印象材の場合、約30秒以上。印象材の変形や破損防止のため、直接水流を当てないように注意が必要で)します。
水洗後、薬液で化学的に消毒します。
○ アルジネート印象材の消毒➡120秒以上水洗します。
0.1~1.0%次亜塩素酸ナトリウム溶液15~30分浸漬します。
2.0~3.5%グルタラール溶液30~60分浸漬←60分の浸漬時間が長いのでアルジネート印象材には使用しません。
○シリコーンゴム印象材の消毒➡30秒以上水洗します。
0.1~1.0%次亜塩素酸ナトリウム溶液15~30分浸漬 2.0~3.5%グルタラール溶液30~60分浸漬します。
・次亜塩素酸ナトリウム溶液、グルタラール溶液共にB型肝炎ウイルスに有効です。
・薬液に浸漬しても影響が少ない印象材は,シリコーンゴム印象材です。
・ハイドロコロイド系印象材は薬液に浸すと大きく変形する⇒取り扱い困難でシリコーンゴム印象材を用いるか消毒時間の短い次亜塩素酸ナトリウム溶液を用います。
石膏模型の消毒
石膏を用いた研究用模型や作業用模型の消毒は、①印象体、②石膏練和水への消毒薬の添加、③完成した石膏模型のいずれかの製作過程で行う必要があります。
石膏の特性(多孔質、加熱による劣化、水に可溶性など)を考慮すると、模型自体の消毒は行わずに、印象体に対して行うことを基本とします。