「歯を治しても噛めない理由」から始まった臨床の再定義
―オーラルフレイルと舌の重要性についてー
ある日、東京大学(高齢社会総合研究機構:IOG)の研究報告が、
歯科臨床の前提を静かに変え始めました。
それを一言で言えばこうです。
👉 「オーラルフレイルは“歯の問題”だけではなく、
“機能の問題”が重要である」
■ 第1章:歯ではなく「機能」が壊れていくという発見
従来、歯科医療の中心は「歯を残すこと」でした。
しかしIOGの研究は、まったく異なる現実を示しました。
オーラルフレイルは単なる口の衰えではなく、
全身のフレイル
サルコペニア
要介護
死亡リスク
へと連なる「全身の入口」であるということです。
そして決定的だったのはこの視点でした。
👉 「歯の本数ではなく、口腔機能の低下が本質」
■ 第2章:その中心にいたのは「舌」だった
口腔機能は次の5つで構成されます。
咀嚼
嚥下
滑舌
唾液
歯
このうち、複数に深く関わる存在がありました。
それが舌です。
舌は単なる器官ではなく、
👉 口腔機能の「ハブ(中枢)」
として、すべての機能をつないでいました。
■ 第3章:「滑舌低下」は始まりのサインだった
IOGのOF-5評価の中で、特に重要な所見があります。
それが「滑舌の低下」です。
これは単なる話しづらさではありません。
舌の運動速度低下
口唇・舌協調の破綻
を意味し、
👉 フレイルの最初のサイン
でした。
御本人はまだ「食べられる」と感じています。
しかし、すでに内部では静かに崩れ始めていました。
■ 第4章:舌圧という「見えない生命線」
研究が進むにつれ、最も重要な指標が明確になります。
それが舌圧です。
30kPa以上:常食可能
20〜29kPa:低下開始
20kPa未満:嚥下障害レベル
つまり舌圧とは
👉 「食べる力の閾値そのもの」
でした(閾値:変化が起きる境目になる値)。
そしてこの数値の低下は、次の連鎖を引き起こします。
■ 第5章:静かに進む「負の連鎖」
舌機能低下は、連鎖的に全身へ広がります。
① 舌機能低下
滑舌低下
食べこぼし
むせ
↓
② 食機能低下
噛めない
飲み込めない
軟らかい物しか食べられなくなる
↓
③ 栄養障害
タンパク質摂取量の低下
筋力低下
↓
④ フレイル
↓
⑤ 要介護・死亡リスク上昇(約2倍以上)
このとき関係者は初めて気づきます。
👉 問題は歯ではなく「舌の崩壊」から始まっていた
■ 第6章:しかし希望もあった ― 舌は「鍛えられる」
重要な発見がもう一つありました。
👉 舌は筋肉であり、回復する
つまりオーラルフレイルは
👉 可逆的(戻せる状態)
であったことです。
ここで治療の方向性が変わります。
歯を守る医療 → 口腔機能を回復する医療へ
■ 第7章:臨床は「測る」時代へ変わった
歯科医院では次のような評価が標準化されました。
■ OF-5スクリーニング
(オーラルフレイルを簡易的に評価する指標)
固い物の食べにくさ
むせることがある
滑舌が悪くなった
口の渇きが気になる
歯の本数が少ない(又は減っている)
■ 基準値による評価(7項目)
舌圧(最重要、舌圧測定器)
咬合力低下(咬合圧検査、残存歯数確認)
咀嚼能力低下(グミを用いたグルコース溶出法など)
舌口唇運動機能低下(目視で発音回数計測)
嚥下機能低下(EAT-10)
口腔乾燥 (口腔水分計、サクソンテスト)
口腔衛生状態不良(OHI-S,TSI検査)
ここで重要なのは明確でした。
👉 舌圧とODK(どれだけ早く正確に口を動かせるかの検査)
■ 第8章:そして補綴は「作り方」が変わった
従来の補綴はこうでした。
歯を守る
フェルールを確保する
咬合をコントロールする
しかし現実は違いました。
ケース
フェルール良好
精密な補綴装置完成
それでも噛めない
原因は明確でした。
👉 舌機能が崩れていると補綴は機能しない
■ 第9章:補綴設計は「舌圧で変わる」
ここで設計思想が完全に変わります。
■ 舌圧 ≥30kPa
👉 効率重視(高い咬頭・明瞭な嵌合)
■ 舌圧 20〜29kPa
👉 捕捉型(低め・丸い形態・広い接触)
■ 舌圧 <20kPa
👉 安定型(フラット・無咬頭・舌房確保)
義歯ではさらに明確です。
高舌圧:解剖学的人工歯
中舌圧:リンガライズドオクルージョン
低舌圧:無咬頭歯+舌空間重視
結論は一つでした。
👉 舌圧が補綴設計の上限を決める
■ 第10章:治療は「歯+舌」へ統合された
ここで初めて臨床は完成形に近づきます。
治療は3本柱になりました。
歯(構造)
舌(機能)
トレーニング(回復)
■ 第11章:舌トレーニングという「医療介入」
舌は単なる観察対象ではなく、治療対象となりました。
代表的トレーニング:
パラタルプレス(舌圧改善)
舌突出運動
左右運動
舌回し
抵抗運動
嚥下連動訓練
ポイントは単純でした。
👉 負荷 × 継続 = 舌圧回復
さらに重要なのは:
👉 オーラルフレイルは改善できる
■ 第12章:高齢者でも続けられる現実的介入
現場では「3分プログラム」が導入されました。
舌を上あごに押す
舌を出す
パ・タ・カ発音
これだけで
むせ減少
食事改善
発音改善
が始まります。
■ 最終章:臨床の本質が変わった瞬間
東京大学IOGの知見が示した結論はシンプルでした。
■ 旧時代
👉 歯を治せば噛める
■ 現代
👉 舌が機能しなければ噛めない
そして最も本質的なメッセージはこれです。
🧠 最終結論
👉 舌の衰えは、全身の衰えの始まりである
そして同時に
👉 舌を守ることは、健康寿命を守ることである
🦷 臨床の新しい定義
フェルール=壊れない条件
咬合=効率
舌=成立条件
👉 そして臨床の真実はこう変わりました
「良い補綴とは、美しい形だけではなく、使える形である」
🦷 歯を治しても噛めない理由とは?
〜東京大学の研究が示す「オーラルフレイル」と舌の重要性〜
「きれいに被せ物を入れたのに噛みにくい」
「入れ歯は合っているはずなのに食べづらい」
このような悩みの背景には、歯そのものではなく
👉 “舌の機能低下” が関係している可能性があります。
近年、東京大学(高齢社会総合研究機構:IOG)の研究により、
口腔機能の低下=オーラルフレイルが、全身の健康と深く関係していることが明らかになっています。
■ オーラルフレイルとは何か?
オーラルフレイルとは、単なる「口の衰え」ではありません。
それは、
食べる力の低下
飲み込む力の低下
話す力の低下
といった口腔機能全体の低下を指します。
そして重要なのはここです。
👉 原因は「歯の本数」ではなく「機能の低下」
この考え方は、従来の歯科医療から大きく変わったポイントです。
■ 舌は「口の中心的な機能器官」です
口の中の機能は主に次の5つで構成されています。
咀嚼(噛む)
嚥下(飲み込む)
構音(話す)
唾液分泌
歯による咬合
このうち複数に関わるのが「舌」です。
つまり舌は
👉 口腔機能の中心(ハブ)
として働いています。
■ 舌の力は「食べる力」そのものです
舌の筋力は「舌圧(ぜつあつ)」として数値化できます。
目安は以下の通りです。
30kPa以上:しっかり食べられる状態
20〜29kPa:やや低下
20kPa未満:飲み込みに注意が必要
つまり舌圧は
👉 “食べられるかどうかの境界線”
といえます。
■ 舌の機能が低下すると起こること
舌の力が弱くなると、次のような変化が起こります。
食べ物をうまくまとめられない
食べこぼしが増える
むせやすくなる
噛みにくくなる
柔らかい食事が増える
この状態が続くと、
栄養不足
筋力低下
体力低下
へとつながり、最終的には
👉 全身のフレイル(虚弱)
へ進行する可能性があります。
■ 実は「滑舌の変化」が最初のサインです
舌機能の低下は、早い段階で次のような症状として現れます。
話しにくい
舌が回らない
パ・タ・カが言いにくい
これらは単なる加齢ではなく
👉 オーラルフレイルの初期サイン
であることが分かっています。
■ 歯だけでは噛めない理由
よくある誤解は「歯を治せば噛める」という考え方です。
しかし実際には、
被せ物がきれいでも噛みにくい
入れ歯が合っていても使いにくい
ということが起こります。
その理由は明確です。
👉 舌が食べ物をコントロールできていないため
歯は“砕く役割”
舌は“まとめて運ぶ役割”
この両方が揃って初めて「噛める」状態になります。
■ 補綴治療と舌の関係
被せ物や入れ歯は「形」を作る治療です。
しかし実際に使うのは「機能」です。
歯:構造(壊れにくさ)
舌:機能(使いこなす力)
つまり、
👉 舌の機能が低いと、どんな補綴も活かされません
■ 舌はトレーニングで回復できます
重要なポイントは、舌が筋肉であるということです。
つまり、
👉 鍛えることで機能は改善します
研究でも、舌圧トレーニングにより
食べやすさ改善
むせの減少
滑舌の改善
が報告されています。
■ ご自宅でできる簡単な舌トレーニング
1日3分で行える方法です。
① 舌全体を上あごと前歯の裏に押しつける
→ 5秒キープ × 5回
② 舌を前に出す
→ 5秒キープ × 5回
③ 「パ・タ・カ」と発音
→ ゆっくり10回
👉 無理なく続けることが最も重要です
■ 当院での取り組み
当院では、従来の歯科治療に加え、
舌圧測定
口腔機能評価
舌トレーニング指導
を行っています。
■ なぜ「舌」を重視するのか
東京大学の研究が示すように、
👉 舌の機能低下は全身の健康低下の入口
であるためです。
そして逆に、
👉 舌を守ることは健康寿命を守ること
につながります。
■ まとめ
オーラルフレイルの本質は、歯ではなく機能です。
特に重要なのは舌です。
歯=噛むための構造
舌=食べるための機能
この両方が揃って初めて、しっかりと噛めるお口になります。
🦷 最後に
「歯を治したのに噛めない」という場合、
それは失敗ではなく、視点の問題かもしれません。
👉 これからの歯科医療は
“歯を見る医療から、機能を見る医療へ”
変わっていきます。


