2023 年 1 月 1 日
一般社団法人 日本口腔衛生学会
公益社団法人 日本小児歯科学会
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
一般社団法人 日本老年歯科医学会
日本の子どものう蝕は経年的に減少傾向にあるが、その罹患率は他の疾患と比較しても高く、また成人では約3人に1人が未処置う蝕を有し、高齢者ではう蝕経験者は増加している 1)。
う蝕予防のフッ化物応用は 75 年以上の歴史で安全性と有効性が繰り返し確認されており、中でもフッ化物配合歯磨剤は日本で広く普及している。
フッ化物応用の研究のアップデートや、市販歯磨剤のフッ化物濃度の変更、国際的な推奨の更新を受け、日本のう蝕予防および治療を専門とする4学会合同で、現在の我が国における推奨されるフッ化物配合歯磨剤の利用方法をまとめることとした。
4学会合同のフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法(2023 年 1 月)
(日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会)
年齢 | 使用量 (写真は約2cm の歯ブラシ 2)) | フッ化物濃度 | 使用方法 |
歯が生えてから2歳 | 米粒程度 (1~2mm 程度) | 1000 ppmF (日本の製品 を踏まえ 900~ 1000 ppmF) | ・就寝前を含めて 1 日 2 回の歯みがきを行う。 ・1000 ppmF の歯磨剤をごく少量使用する。歯みがきの後にティッシュなどで歯磨剤を軽く拭き取ってもよい。 ・歯磨剤は子どもの手が届かない所に保管する。 ・歯みがきについて専門家のアドバイスを受ける。 |
3~5歳 | グリーンピース程度 (5mm 程度) | 1000 ppmF (日本の製品 を踏まえ 900~ 1000 ppmF) | ・就寝前を含めて 1 日 2 回の歯みがきを行う。 ・歯みがきの後は、歯磨剤を軽くはき出す。うがいを する場合は少量の水で1回のみとする。 ・子どもが歯ブラシに適切な量をつけられない場合は 保護者が歯磨剤を出す。 |
6歳~ 成人・高齢者 | 歯ブラシ全体 (1.5cm~2cm 程度) | 1500 ppmF (日本の製品 を踏まえ 1400~ 1500 ppmF) | ・就寝前を含めて 1 日 2 回の歯みがきを行う。 ・歯みがきの後は、歯磨剤を軽くはき出す。うがいをする場合は少量の水で1回のみとする。 ・チタン製歯科材料が使用されていても、歯がある場合はフッ化物配合歯磨剤を使用する。 |
*乳歯が生え始めたら、ガーゼやコットンを使っておロのケアの練習を始める。歯ブラシに慣れてきたら、歯ブラ シを用いた保護者による歯みがきを開始する。
*子どもが誤って歯磨剤のチューブごと食べるなど大量に飲み込まないように注意する。
*根面う蝕の予防が必要な成人には 5000ppmF の歯磨剤のう蝕抑制効果が認められている。
現在日本では市販されていないため認可されることが望まれる。
*要介護者で嚥下障害を認める場合、ブラッシング時に唾液や歯磨剤を誤嚥する可能性もあるので、ガーゼ等による吸水や吸引器を併用するのもよい。
また,歯磨剤のために食渣等の視認性が低下するような場合は、除去してからブラッシングを行う。
またブラッシングの回数も状況に応じて考慮する。
*水道水フロリデーションなどの全身応用が利用できない日本では、歯磨剤に加えフッ化物洗口や塗布の組合せも重要である。
*写真 2)の歯ブラシの植毛部の長さは約 2cm である。
<解説>
あらゆる医薬品の適応や保健医療介入と同様に、フッ化物配合歯磨剤の使用については、メリット 3, 4)
とデメリット 5)の両方が考慮されるべきである。
双方を考慮した上で作成された現在の国際的な推奨と しては、国際歯科連盟(FDI)6, 7)や世界保健機関(WHO)が作成したフッ化物配合歯磨剤の推奨 8)が存 在する。
これらを参考としてさらに日本の状況を考慮し、今回の推奨は作成された。
歯磨剤のフッ化物濃度は高いほどう蝕予防効果が高いと考えられるが、飲み込みによるリスクを考 え、年齢別の推奨をおこなっている。
歯の形成期である乳幼児・小児に対しては、歯のフッ素症のリス クと 5)、う蝕予防のメリット 4, 9)のバランスを考慮する必要があり 10)、メリットがリスクを上回ると考え られる利用法が推奨されており 8)、本推奨もこれを踏襲した。
また、歯磨剤を乳幼児が誤って大量に食べたり飲み込んだりしないよう、使用方法、保管場所に気を つける。歯磨剤を製造する企業では、乳幼児向け歯磨剤についてはチューブを 1 本飲み込んでも問題な い総量のチューブの製品の製造・販売が基本的にされているが、大量摂取には注意する。
また多くの市 販される歯磨剤で、配合されるフッ化物濃度が記載されておらず、今回の推奨を守る上でもこのことは 大きな問題である。
歯磨剤の国際規格(ISO 11609)では、容器にフッ化物の種類と濃度を表示することが義務づけられており、こうした国際規格に合わせ日本でも歯磨剤のフッ化物濃度の明記が求められ る。
さらに日本では味などの点で子ども向けの 1450 ppmF の製品が少ないので、販売が望まれる。
日本では現在販売されていないが、5000 ppmF の高濃度フッ化物配合歯磨剤の有用性が知られてお り、ハイリスク者への利用が推奨されるようになっている 6)。
特に、初期活動性根面う蝕は、5000 ppmF の歯磨剤の使用によって進行が停止する明らかなエビデンスが示されており、歯根表面が口腔に 露出しやすい高齢者で、根面う蝕が多発するようなケースでは 5000 ppmF の歯磨剤が有用である 11, 12)。
そのため日本でも診療ガイドラインで根面う蝕への対策として推奨されるようになった 13)。
先進諸国の 多くは 5000 ppmF の歯磨剤を歯科医師が処方しているが、処方箋なしで購入できる国も増えている。 日本においても 5000 ppmF の歯磨剤の販売の認可が求められる。
高齢者においても、根面う蝕を含むう蝕予防の観点からフッ化物配合歯磨剤の利用が推奨されている 3, 14)。
高濃度で酸性のフッ化物歯面塗布にはチタンインプラントを腐食させる可能性があるが、低濃度 で中性のフッ化物配合歯磨剤ではその可能性はないと考えられる 15)。
また、フッ化物を配合しない製品 に使われることがあるクロルヘキシジンには、う蝕予防効果がないことが報告されており 16)、使用上の 注意も存在する 17-20)。
そのため天然歯へのう蝕予防効果を考え、インプラント患者にもフッ化物配合歯 磨剤の利用が推奨されている 15)。
国際的にも全ての人へのフッ化物配合歯磨剤の利用が推奨されており 6-8)、これらを本推奨も踏襲した。
<文献>
1) 厚生労働省:平成 28 年歯科疾患実態調査:[http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/62-28-02.pdf]
2) 高柳篤史: フッ化物配合歯磨剤によるう蝕予防. 小児歯科臨床 27:16-23,2022.
3) Zhang J, Sardana D, Li KY ほか: Topical Fluoride to Prevent Root Caries: Systematic Review withNetwork Meta-analysis. J Dent Res 99:506-513,2020.
4) Walsh T, Worthington HV, Glenny AM ほか: Fluoride toothpastes of different concentrations for
preventing dental caries. Cochrane Database Syst Rev 3:Cd007868,2019.
5) Wong MC, Glenny AM, Tsang BW ほか: Topical fluoride as a cause of dental fluorosis in children.
Cochrane Database Syst Rev 2010:Cd007693,2010.
6) World Dental Federation:Caries prevention and management chairside guide(う蝕予防とマネジ
メ ン ト チ ェ ア サ イ ド ガ イ ド ) : [https://www.fdiworlddental.org/caries-prevention-and-
management-chairside-guide]
7) World Dental Federation : Promoting Dental Health through Fluoride Toothpaste :
[https://www.fdiworlddental.org/promoting-dental-health-through-fluoride-toothpaste]
8) World Health Organization: The selection and use of essential medicines: report of the WHO Expert Committee on Selection and Use of Essential Medicines, 2021 (including the 22nd WHO Model List of Essential Medicines and the 8th WHO Model List of Essential Medicines for
Children). In. Geneva: World Health Organization; 2021.
9) Marinho VC, Higgins JP, Sheiham A ほか: Fluoride toothpastes for preventing dental caries in
children and adolescents. Cochrane Database Syst Rev:CD002278,2003.
10) Wong MC, Clarkson J, Glenny AM ほか: Cochrane reviews on the benefits/risks of fluoride
toothpastes. J Dent Res 90:573-579,2011.
11) Ekstrand KR, Poulsen JE, Hede B ほか: A randomized clinical trial of the anti-caries efficacy of
5,000 compared to 1,450 ppm fluoridated toothpaste on root caries lesions in elderly disabled
nursing home residents. Caries Res 47:391-398,2013.
12) Srinivasan M, Schimmel M, Riesen M ほか: High-fluoride toothpaste: a multicenter randomized
controlled trial in adults. Community Dent Oral Epidemiol 42:333-340,2014.
13) 日本歯科保存学会: 根面う蝕の診療ガイドライン-非切削でのマネジメント-. In.: 日本歯科保存学
会; 2022.
14) Griffin SO, Regnier E, Griffin PM ほか: Effectiveness of fluoride in preventing caries in adults. J
Dent Res 86:410-415,2007.
15) 日本口腔衛生学会:フッ化物配合歯磨剤の利用はチタン製歯科材料使用者にも推奨すべきである:
[http://www.kokuhoken.or.jp/jsdh/statement/file/statement_20150508.pdf]
16) Walsh T, Oliveira-Neto JM, Moore D: Chlorhexidine treatment for the prevention of dental caries
in children and adolescents. Cochrane Database Syst Rev:Cd008457,2015.
17) m3.com:クロルヘキシジンに重大副作用追記、死亡例も 厚生労働省、「アナフィラキシー」な
どで改訂指示:[https://www.m3.com/clinical/news/563383]
18) 厚生労働省:クロルヘキシジングルコン酸塩又はクロルヘキシジン塩酸塩を含有する医療機器等に
係る「使用上の注意」の改訂について:[https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-
Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000190392.pdf]
19) 厚生労働省:医薬品等の使用上の注意の改訂について:[https://www.mhlw.go.jp/file/05-
Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000184827.pdf]
20) 厚生労働省:クロルヘキシジングルコン酸塩又はクロルヘキシジン塩酸塩を含有する医薬部外品の
「使用上の注意」の改訂について:[https://www.pmda.go.jp/files/000220530.pdf]